みんゴロ古文出典

出題率 0.6 % 44 位 1702 ~ 1783 俳人 横 よこ 井 い 也 や 有 ゆう 江戸中期 遁 とん 世 せい の姿すでに定まりぬ。さては うき世 の名にもあらじ。 さるべき 二字にあらため ばや と、 名を思ひ字をゑらむに、今は父母も世にまさず、官路も いとひ 離れたれば、忠孝の字義をとらむも 跡のまつりとやいふべからむ。よしまた四書・古文の抜書も、あまねく人の取り尽くし、 まして帰去来のことばなど、あらゆる隠者のむしり取りて、骨ばかりに喰ひちらしたる。 さらば 博識の門に乞はば、意味深長の二字も など あらざる べき 。されども それは耳遠ければ、名はいかにと問ひ聞かむ人の、 とみに 心得ぬ顔の 口をしく 、 ほね折の 詮 せん なき心地すれば、これはその書のたが言なりなど、一人一人に講釈せんは いと むつかしかり ぬ ※ べし 。 菩 ぼ 提 だい の道も 疎 うと ければ、 西 さい 念 ねん ・ 浄 じゃう 蓮 れん にても有るべからず。されば 世の人のうへをみるに、金蔵といふも貧に責められ、 萬 まん 吉も不幸はのがれず。玉といふ下女光もなく、 遁世の姿がすでに定まった。遁世したからには 俗世 で用いた名でもあるまい。 しかるべき 二字に改め たい と、 名を思い字を選ぶにあたり、今は父母もこの世におられず、官の道も いやに思って 離れたので、忠孝に関係した名を選ぶのも、 すでに時が遅れたというべきであろうか。たとえ四書や『古文真宝』から抜き出すとしても、多くの人が取り尽くしているし、 まして「帰去来辞」のことばなどは、あらゆる隠者がむしり取って、骨ばかりになるほど食いちらしている。 それならば 博識の人の門をたたいて求めたなら、意味深長な二字も どうして 得られない ことがあろうか、いや、得られるだろう 。しかし それは耳なれないから、名は何というのですかと尋ね聞くような人が、その名を聞いて すぐには 合点のいかない顔つきをするのが 残念で 、 説明する苦労も無益に思われるので、これはその書物の中の誰の言葉だなどと、一人一人に講釈するのは たいへん 面倒なこと に違いない。仏の悟りの道にも縁が遠いから、西念・浄蓮などと仏に関係のある名をつけるわけにはいかない。ところで 世間の身の上をみると、金蔵という名でも貧乏に責められ、萬吉も不幸は がれられない。玉という下女も光がなく、

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