みんゴロ古文出典
出題率 0.6 % 455 位位 1719 ~ 174 俳人・ 読本作家 建 たけ 部 べ 綾 あや 足 たり 江戸中期 ある夜、雪いたう降りて、表の人音ふけゆくままに、 衾 ふすま 引き かづき て 臥 ふ したり。あかつき近うなつて、 障子ひそまりあけ、盗人の入り来る。娘おどろいて、「助けよや人々。よや、よや」とうち泣く。 野 や 坡 ば 起き上がりて、盗人に向かひ、「わが 庵 いほ は 青 せい 氈 せん だもなし。されど、 飯 めし 一釜、よき茶一 斤 きん は 持ち得たり。 柴 しば 折りくべ、暖まりて、人の知らざるを 宝 ※ にかへ 、明け方を待たでいなば、我にも 罪なかるべし」と、談話常のごとくなれば、盗人もうちやはらいで、「まことに表より見つるとは、 貧福、金 と ※ 瓦 かはら のごとし。さらばもてなしにあづからん」と、 覆 ふく 面 めん のまま並びゐて、数々の 物語す 。 中に年老いたる盗人、机の上をかきさがし、句の書けるものをうち広げたるに、 草庵の急火をのがれ出でて わが 庵 いほ の桜も わびし 煙 けぶ りさき 野 や 坡 ば といふ句を見つけ、 「この火いつのことぞや」。野坡がいはく、 「しかじかのころなり」、盗人手を打ちて、 ある晩、雪がたいそう降って、表の人通りの音も絶え、夜がふけゆくにつれて、夜具を 引きかぶっ て寝てしまった。明け方近くになって、 障子をそっと開けて、 人が入って来る。娘はびっくりして、「助けてくれえ、みんな。おおい、おおい」としきりに泣く。 野 坡 は 起 き 上 が っ て、 盗 人 に 向 か っ て、「 私 の 家 は、 家 宝 さ え も な い。 だ が、 飯 が 一 釜 と よ い 茶 一 斤 を 持っている。柴を折って火にくべ、暖まって、人が気づかないのをよいことにして、明け方になるのを待たないで去るならば、私にも 盗人をかばったという罪がないにちがいない」と普段のようであるので、盗人もうちとけて、「本当に外から見たのとは逆で、 貧富の差は、まるで金と瓦のようだ。それなら、もてなしに預りたい」と言って、覆面のままで並んですわり、いろいろな 話をする 。 その中で年をとっている盗人が、机の上をひっかきまわして捜し出し、句が書いている紙をさっと広げたところ、 という句を見つけて、「この火事はいつのことか」と問う。野坡が「これこれの頃である」と答える。盗人は、わかったと手を打って、 ○家の突然の火事から逃げ出して私の家の桜も 辛いことだ 。煙の流れる先にあって煙の花を咲かせて。 野 坡
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