みんゴロ古文出典
出題率 0.6 % 47 位 仮名草子 作者未詳 伊 い 曾 そ 保 ほ 物 もの 語 がたり 江戸前期 ある河のほとりを、馬に乗りて通る人ありけり。そのかたはらに、竜といふもの、水に離れて 迷惑するありけり。この竜、今の人を見て申しけるは、「われ、今、水に離れて せんかたなし 。 あはれみを垂れ給ひ、その馬に乗せて水ある所へ着けさせ給はば、その返報として金銭を奉らん」 といふ。かの人、 まこと と心得て、馬に乗せて水上へ送る。そこにて、 「約束の金銭をくれよ」といへば、 竜、怒つて云はく、「なんの金銭をか 参らす べき。我を馬に 括 くく り付けて痛め給ふ だに あるに、金銭とは 何事ぞ」といどみあらそふ所に、狐、 馳 は せ来つて、「さても竜殿は、何事をあらそひたまふぞ」 といふに、竜右のおもむきをなんいひければ、狐、申しけるは、「われ、この 公 く 事 じ を決すべし。 さきに括り付けたるやうは、なにとかしつるぞ」といふに、竜、申しけるは、「かくのごとし」とて、 また、馬に乗るほどに、狐、人に申しけるは、「いか程か締め付け ら ※ るる ぞ」といふ程に、 あ る 河 の ほ と り を 馬 に 乗 っ て 通 る 人 が い た。 そ の す ぐ 側 に、 竜 と い う も の が 水 か ら 離 れ 出 て、 困惑してい ことがあった。この竜はその今通る人を見て申したことは、「私は今水から離れて どうするすべもない 。 慈悲をおかけくださって、その馬に乗せて水のある所へ着くようにさせていただけるならば、そのお礼として金銭を差し上げましょう」 と言う。その人はその言葉を 本当だ と信じて、竜を馬に乗せて川上へ送る。その場所で、「約束の金銭をください」と言ったところ、 竜は怒って言うことには、「一体何のために金銭を 差し上げ ようぞ。私を馬にくくりつけて痛めつけなさったこと さえ ある上に、金銭をくれとは 何事だ 」と挑発して言い争う所に、狐が駆けて来て、「 それにしても竜殿は何事を争いなさっているのか 」 と 言 う の で、 竜 は 前 述 の 成 り 行 き を 言 っ た と こ ろ、 狐 が 申 し た こ と は、「 私 が こ の 訴 訟 を 裁 定 し よ う。 先程の馬へのくくり付けようはどのようにしたのだ」と言うと、竜が申したことは、「このようにです」と言って、 再 び 馬 に 乗 っ た と こ ろ、 狐 は 人 に 申 し た こ と は、「 ど の 程 度 締 め 付 け な さ っ た の か 」 と 言 う の で、
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