みんゴロ古文出典
出題率 0.4 % 53 位 伝奇物語 源 みなもとの 順 したごう か 宇 う 津 つ 保 ほ 物 もの 語 がたり 平安中期か 次の文は『宇津保物語』の首巻「俊蔭」の一節。十六歳で唐土に渡ることになった俊蔭が、難破して見知らぬ海辺に打ち 上げられる。観世音菩薩に祈るうち青い馬が現れて、三人の人が虎の皮を敷いて琴を弾いている所へつれて来てくれた。 俊 とし 蔭 かげ 、林のもとに立てり。三人の人、問ひていはく、「 かれ は、何ぞの人ぞ」。俊蔭答ふ、 「日本国の王の 使 つかひ 、清原の俊蔭なり。 ありし やうは、かうかう」といふときに、三人、「 あはれ 、 旅人にこそ あなれ 。しばし宿さむかし」といひて、並べる木のかげに、同じき皮を敷きて 据ゑつ。俊蔭、もとの国なりしときも、 心に入れ しものは 琴 きん なりしを、この三人の人、 ただ 琴をのみ弾く。されば添ひゐて習ふに、一つの 手 ※ 残らず習ひとりつ。 花の露、 紅 もみぢ 葉 の 雫 しづく をなめて あり 経 ふ る に、明くる年の春より聞けば、この林より西に、 木を倒す 斧 をの の声、 遥 はる かに聞こゆ。そのときに、俊蔭思ふ、ほどは遥かなるを、響きは高し。 音 ね 高かるべき木かなと思ひて、琴を弾き、 書 ふみ を 誦 じゆ して、 なほ 聞くに、三年この木の声絶えず。 俊 蔭 は 林 の 傍 に 立 っ て い た。 三 人 の 人 は、「 お 前 は 何 者 だ 」 と 問 う た。 俊 蔭 が、 「日本国の王の使者、清原の俊蔭です。 今までの いきさつは、かくかくしかじかです」と言うと、三人は、「 ああ 、 旅人で あるようだ 。しばらくの間泊めてやろうではないか」と言って、自分たちが並んで座っている木陰に、同じ虎の皮を敷いて、 俊蔭を座らせた。俊蔭は、本国にいたときも、 心を込めて習ってい たものは琴であったが、この三人の人は、 ひたすら 琴だけを弾いていた。そこで俊蔭は、三人のそばを離れず琴を習うと、琴の曲の奏法を一曲も残さず、すべて習得してしまった。 花 の 露、 紅 葉 の 雫 を な め て 生 き な が ら え る う ち に、 翌 年 の 春 か ら、 こ の 林 よ り 西 に、 木 を 倒 す 斧 の 音 が、 は る か に 聞 こ え て く る。 そ の 時、 俊 蔭 は、 距 離 は 遥 か な よ う だ が、 音 の 響 き が 高 い。 きっとすばらしい音の出る木にちがいないと思って、琴を弾き、詩や文を口ずさみながら、 やはり 聞いていると、三年もの間、この木の音は絶えなかった。
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