みんゴロ古文出典
読解ポイント 賀茂真淵(1697~1769)は江戸中期の国学者・歌人。 に広く古典を研究し、『万葉考』『冠辞考』『国意考』など の書を著して近世国学および和歌史上大きな足跡を残し、 国学四 し 大 たい 人 じん の一人とされる。 本文は『国意考』 出題 : 学習院大学 荷 かだのあずままろ 田春満の門下生で多くの著述をなすとともに、本居宣長 ら多くの門人を養成する。古典研究では『万葉集』を中心
すなはち あたゝかに、夏立てば急にあつかるべし。この唐の教へは、天地に背きて急速に佶屈なり。 よりて、人の 打 うち 聞 ぎき には才覚ありて聞きやすく ことわり やすけれど、さは行はれざるものなり。 天地のなす春夏秋冬の漸くなるに背ける 故 ゆゑ なり。天地の中の虫なる人、いかで天地の意より せまりていふ教へを行ふことをえむや。天が下のものには、かの四時のわかちあるごとく、 いつくしみもいかりも 理 ことは りもおのづからあること、四時のある限りは絶えじ。 それを人として、別に仁義礼智など名付くる故に、悪きこと多きやうにはなるぞかし。 たゞ さる名もなくて、天地の心のまゝなるこそよけれ。 すぐさま 暖かくなり、立夏になると急に暑くならねばならない。しかしこの唐の教えは、実は天地の運行に背いていて急激で固くるしい。 だから人が ちょっと聞いた ぐらいの時は、くふうがあって聞きやすく 理解 しやすいけれども、実際にはそのようには行われないものだ。 天地のなす春夏秋冬が次第に変化するという原理に背いているからだ。天地・自然のなかでは、虫と同等にすぎない人間が、どうして天地の意よりも 急 激 に 迫 っ て 言 う 儒 教 の 教 え を 実 行 で き る だ ろ う。 天 下 の も の に は、 四 季 の 区 別 が あ る よ う に、 慈 し み も 怒 り も 道 理 も 自 然 と 存 在 す る こ と は、 四 季 の あ る 限 り は 絶 え る こ と は な い だ ろ う。 そ れ を 人 間 が 勝 手 に、 別 に 仁 義 礼 智 な ど と 名 付 け る か ら、 悪 い こ と が 多 く な の だ。 そのような名もなくて、 ひたすらに 天地の運行のあるがままがよいのだ。
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