みんゴロ古文出典

出題率 0.4 % 57 位 物語 作者未詳 狭 さ 衣 ごろも 物 もの 語 がたり 平安後期 その夏ころより、帝、御心地 例ならず おぼされて、「 いかで 静かなるさまになりて、 行ひ をのどかに せ ばや 」とおぼしめして、嵯峨野のわたりに、 いかめしき 御堂など造らせたまへり。 世を 知ら せたまひて二十年にもならせたまひぬ。一の親王おはしませば、 あかぬ ことなき御身なれど、 世をおぼしめし捨ててむことを、大殿などはいと口惜しく惜しみきこえ させたまひ けり。 さるべき御仲といひながら、いとありがたう なつかしき 御 心ばへ 、有様なれば、千年も変はらで 見たてまつらまほしきも、 ことわりなり かし。されども、七月よりは、まことしう なやましげに て、 もの心細げなる御気色を、中宮はいと忍びがたげにおぼし嘆きたるも、いと心苦しくて、 限りあらむ御別れのほども、ひきとどめられさせたまひぬべうおぼしめさるれば、 まいて少しも うつし心 通はせたまはむ日までは、片時も立ちのききこえさせたまひぬべくもあらねど、 その夏のころから、帝はご気分が いつもと違ってよくない と思われ、「 何とか て 静かな環境に身を置き、落ち着いて 仏道修行 に 励み たいものだ 」と思われて、嵯峨野のあたりの後院(=退位後の御所)に 荘厳な 御仏堂などを造りなさった。 世を 統治 なされて二十年にもなられた。第一皇子がいらっしゃるので もの足りない ことのないお身の上だが、 世を捨てて出家なさってしまおうという帝のことを、大殿(=堀川関白)などはとても残念にお思い申し上げ なさっ た。 お二人はご兄弟の御仲とはいうものの、帝は実にまれにみる 柔和な ご 気立て やお振る舞いなので、大殿がいつまでも変わらず 帝としてお見申し上げたいと思うのも、 当然のことである よ。しかしながら七月からは本当に 気分が悪そう で、 何となく頼りなさそうなご様子なのを、中宮がとても耐えがたく思われ嘆きなさるのも、帝はまことにつらく、 死 別 の 時 も 中 宮 の 嘆 き に 冥 途 へ の 旅 立 ち が 引 き 止 め ら れ な さ っ て し ま い そ う に 感 じ ら れ た の で、 まして少しでも 意識 がはっきりしておられる日までは、瞬時も中宮からお離れ申し上げなさることはできそうもないけれど、

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