みんゴロ古文出典
出題率 0.3 % 60 位位 1363 ~ 1443 能役者・ 能楽論 世 ぜ 阿 あ 弥 み 室町前期 秘する花を知ること。「秘すれば花なり。秘せ ずは 花なるべからず」 となり。この分け目を知ること、肝要の花なり。そもそも一切の事、諸道芸において、 その家々に秘事と申すは、秘するによりて大用あるが ゆゑ なり。 しかれば秘事といふことをあらはせば、させることにてもなきものなり。 これを、させることにてもなしといふ人は、いまだ秘事といふことの大用を知らぬがゆゑなり。 まづこの花の口伝におきても、ただ珍しきが花ぞと皆人知るならば、さては珍しき事 あるべしと 思ひ設け たらん見物衆の前にては、たとひ珍しきことをするとも、 見 み 手 て の心に 珍しき 感 はあるべからず。見る人のため花ぞとも知らでこそ、 為 し 手 て の花にはなるべけれ。 されば見る人は、ただ思ひのほかに面白き上手とばかり見て、これは花ぞとも知らぬが、 秘密にすることによって生じる花を知ることが大切である。「秘密にしているからこそ花になるのである。秘密にし ないならば 花にはなり得ない」 ということである。花 なるかならないかの分かれ目を理解することが、花の秘訣である。そもそも、世間一般の諸道・諸芸において、 それぞれ専門の家々に秘事と称するものがあるのは、それを秘密にしておくことによって大きな効用があることが 理由 である。 だ か ら 秘 事 と い う も の の 具 体 的 内 容 を 明 ら か に し て み る と、 そ れ ほ ど 大 し た こ と で は な い の で あ る。 だからといってそれを、大したことでもないと言う人は、まだ秘事というものの大きな効用を知らないだけなのである。 まず、この花の秘伝についてもただ珍しさが花なのだとみんなが知っているならば、きっと何か珍しいことを するだろうと 期待し ているような見物衆の前では、たとえ珍しいことを演じたとしても、それを見る人の心には 珍しさを 感じること があるはずもない。観客にとって花というものの存在を知らずにいてこそ、為手の花になるのである。 だ か ら 観 客 が た だ 意 外 に 面 白 い 上 手 な こ と だ と だ け 感 じ て、 こ れ が 花 な の だ と 知 ら な い で い る の が、
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