みんゴロ古文出典

読解ポイント 『 夜 よる の寝覚』は『 夜 よ 半 わ の寝覚』とも言い、平安後期の物語。 作者は菅原孝標女と言われている。女主人公寝覚の君と義理 の兄中納言との悲恋を中心に、女君の波乱の運命を描く。『源 氏物語』の「宇治十帖」の影響が強く、複雑な女性心理を描 いている。 菅原孝標女は、他にも『浜松 中納言物語』を書いたと言 われています。 出題 : 西南学院大学

男女 君 きん だちをも、みな一つに迎へ寄せて、世のつねにおぼしうつろふ御心も絶えて、 一人の御羽の下に四所をはぐくみたてまつりたまひつつ、男君には笛をならはし、文を教へ、 姫君のいとすぐれて生ひたちたまふには、姉君には 琵 び 琶 は 、中の君には 箏 しやう の琴を教へたてまつりたまふに、 おのおのさとう かしこく 弾きすぐれたまふ。中にも、中の君の十三ばかりにて、 まだいと いはけなかる べきほどにて、教へたてまつりたまふにも過ぎて、 ただひとわたりに、限りなき音を弾きたまふ。「この世のみにてしたまふことには あらざりけり」と、あはれに かなしく 思ひきこえたまふ。 男君も女君も、皆一緒に自分のもとに迎え集めて、後添いを迎えるといった世間通常のお考えに心変わりすることも全くなく、 自分ひとりの愛情の羽に包んで四人のお子様をお育て申し上げなさりながら、男君には笛を習わせ、漢詩文を教え、 たいそう美しく成長なさった姫君たちには、姉君には琵琶を、妹の中の君には箏の琴をお教え申し上げなさるが、 お 二 人 と も 賢 く と て も 見 事 に お 弾 き に な る。 中 で も、 中 の 君 は 十 三 歳 ほ ど で、 ま だ と て も 子 供 っ ぽ い は ず の 年 頃 な の に、 父 君 が お 教 え 申 し 上 げ な さ る 以 上 に、 たちどころに、この上ないすばらしい音色をお弾きになられる。太政大臣は「これは現世の才能だけでなさることでは ない」と、中の君をしみじみ いとしく お思い申し上げなさる。

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