みんゴロ古文出典

した。そこは比叡山のふもとで、雪が高く降り積もって いた。親王はすることもなくて悲しげな様子だった。馬の 頭は昔話などをして、そのままお仕え申し上げたいと思っ たけれども、朝廷での仕事があるためそれもできず、「親 敏行と女性が結ばれた後のこと。敏行から「今日は雨が 降りそうなので、行くかどうか迷っています」という手紙 がきたので、例の主人がまた女性に代わって、「私への想

1 位 3 2 位 須 夕 顔 1 位 2 位 八三段 一〇七段 昔、 水 み 無 な 瀬 せ の離宮に通っていた 惟 これ 喬 たか 親王が、いつものよ うに鷹狩りにお出かけになった。お供には馬の 頭 かみ であった 翁がお仕え申し上げ、数日後、親王は京の自分の邸にお 戻りになった。馬の頭は親王をお送りした後、早く家へ帰 りたいと思っていたが、親王がお酒と褒美を与えになり 帰してくれない。馬の頭は帰りたくて、「今夜は枕として 昔、身分の高い男の家にいた女性に、藤原 敏 とし 行 ゆき が求婚 した。しかし女性はまだ年が若かったので、恋文や筆跡も しっかりしておらず、言葉遣いもわからず、まして和歌は 詠めなかったので、この女性の主人の男が手紙の下書きを して、女性に清書をさせて返送した。敏行はその手紙に 感動し、「所在無く降り続く長雨で水かさ増した川より も、あなたを想い続けて涙を流している私の涙川は、袖 ばかりが濡れ あなたに逢う方法がありせん」と返し た。それに対して女に代わって例の主人が、「涙の川浅 磨 草を引き寄せて結ぶ旅の仮寝もいたしますまい。秋の夜 のように夜長を頼みにしゆっくりすることさえできませ んので」と詠んだ。時節は春の終わりの三月の末だった。

王様が出家なさった現実をふと忘れて、今は夢を見てい るような気がしますまさか深い雪を踏み分けて親王様 にお逢いすることになろうとは思ってもみませんでした」 と泣きながら和歌を詠んで京に帰った。 いを計ることができる雨が降りつのっています(想いが強 ければ雨の中でもいらっしゃってください)」と詠んだ。そ れを読んだ敏行は笠も身に着けずにびしょびしょになって 女性のもとにかけつけたのあった。

その後親王は、意外なことに出家なさった。馬の頭は、 正月に拝謁申し上げようとして、親王のいる小野に参上 いから、袖ばかり濡れるのでしょう。体が流されくら 涙を流してくれるならあなたの思いも信じられますが」と 詠んだ。敏行はまた感心 、その手紙を大切に保存した。

内容は実在した六歌仙の一人在原業平 ( ~ )の一代記風。

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