みんゴロ古文出典

読解ポイント この段は東大の入試でも出題された箇所で、『十訓抄』の中の第 七の項目〈思慮を専らにすべき事〉に当たる。お話はオチある

この人、「 しかしか さま侍り。思ひ知らぬにはなけれども、前世の 宿 しゅく 執 しふ にや、 このこと さりがたく 心にかかり侍れば、 本 ほ 意 い 遂 と げてのちは、 やがて 出家して、 籠 こも り侍るべきなり。隔てなく仰せ給ふ、いとど本意に侍り」とあるを、 そのままにまた聞こゆ。主、手をはたと打ち、「いかに聞こえつるぞ」と言へば、 「 しかしか 、仰せのままになむ」といふに、すべて いふばかりなし 。 この貴族は、「 いかにも その通りです。私自身わきまえていないわけではないのですが、前世から続く執心なのでしょうか、 こ の 任 官 の 望 み が 捨 て き れ ず 心 に か か っ て お り ま す の で、 宿 願 を 叶 え た 後 は、 す ぐ に 出 家 し て、 隠棲するつもりです。隠さずおっしゃってくださったのは、ますます本望でございます」と言うのを、 使いの侍はその通りにまた顕頼に申し上げる。主人の顕頼は、手をポンと打って、「どのように申し上げたのだ」と言うと、 使いの侍は「 そうそう 、おっしゃった通りに申し上げました」と言うので、まったく あきれて言葉もない 。

一種のギャグで、こ後部下の思慮の浅さに呆れた顕頼は、年 取ったこ貴族に非礼を詫び、帝に昇進を奏上して少将に昇進 させた。そ後その老貴族は本意を達したということで、思い 残すことなく本当に出家しただった。 ★ 「 やらむ 」は「にやあらむ」の転じたもので、 「~であろうか」 と訳す。「に」は断定「なり」連用形。 「にやあらむ」が転じて 「やらん」になったのです。 訳と、 「に」が断定の助動詞 「なり」の連用形であること に注意です !

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