みんゴロ古文出典
易 難 入試 出題箇所を チェック ! 中堅大学での出題が多 く、文章の難易度も高 くない。文学史問題に 注意。 今は昔、 震 しん 旦 たん に荘子と云ふ人有りけり、心賢くして悟り広し。此の人、道を行く間、沢の中に、 一の 鷺 さぎ 有りて、ものを伺ひて立てり。荘子、此れを見て 窃 ひそ かに鷺を打たむと思ひて、杖を取りて 近く寄るに、鷺逃げず。荘子、此れを怪しむで、 弥 いよいよ 近く寄りて見れば、鷺、一の 蝦 えび を食はむとして 立てるなりけり。然れば、人の打たむとするを知らざるなりと知りぬ。亦、其の鷺の食はむとする 蝦を見れば、逃げずして有り。此れ、亦、一の小さき虫を食はむとして鷺の伺ふを知らず。 其の時に、荘子、杖を棄て、逃れて心の内に思はく、「鷺・蝦、皆、我れを害せむとする事を 知らずして、 各 おのおの 他を害せむ事をのみ思ふ。我れ、亦、鷺を打たむとするに、我れに増さる者 有りて我れを害せむとするを知らじ。然れば 如 ※ かじ 、我れ、逃げなむ」と思ひて、 走り去りぬ。此れ、賢き事なり。人かくの如く思ふべし。 『 今 こん 昔 じゃく 物 もの 語 がたり 集 しゅう 』 法政大学 今は昔、震旦(中国)に荘子という人がいた。聡明で物事の道理を深く理解する人であった。この人が道を歩いていると、沼地に 一 羽 の 鷺 が い て、 な に か を 狙 っ て い る。 荘 子 は こ れ を 見 て そ っ と 鷺 を 打 と う と 思 い、 杖 を 取 っ て 近づいて行ったが、鷺は逃げない。荘子は不思議に思って、いっそう近寄って見ると、鷺は一匹の蝦を食おうとして 立っているのであった。そのため人が打とうとするのを気がつかずに るのだとわかった。またその鷺が食おうとしている 蝦を見ると、これも逃げないでいる。それもまた一匹の小虫を食おうとして鷺が狙っているのにも気づかないのである。 そのときに、荘子は杖を投げ捨てて、逃げ出して心の中で考えるに、「鷺も蝦もみな自分を害しようとするもののいることに 気がつかず、おのおの他のものを害しようとのみ思っている。自分もまた鷺を打とうとして、自分にまさるものが 自分を害しようとしているのに気がつかぬのかもしれぬ。だから、自分は逃げ出す に越したことはあるまいよ 」と思って、 そこから走り去った。これは賢明なことである。人はみなこのように思うべきである。 DATA FI LE
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