みんゴロ古文出典

易   難 入試 出題箇所を チェック ! 近世文学としては上位 にランクイン。難易度 としては平均的文学 史に注意。  (精霊) 「恒の 産 なりはひ なきは恒の心なし。百姓は勤めて 穀 たなつもの を出だし、 工 た く み 匠 ら 修 つと めてこれを助け、 商人務めてこれを通はし、おのれおのれが 産 なり を治め家を富まして、 祖 みおや を祭り子孫を謀る ほか、たるもの何をかなさん。 諺 ことわざ にもいへり。『千金の子は市に死せず』『富貴の 人は王者と楽しみを同じうす』となん。まことに淵深ければ魚よく遊び、山長ければ 獣よく育つは、天のまにまになる ことわりなり 。ただ、貧しうして楽しむ てふ 言葉ありて、字を学び韻を探る人の 惑ひ をとる端となりて、弓矢取る ますら 雄 を も 富貴は国の 基 もとゐ なるを忘れ、 あやしき 計 たばかり 策 をのみ 調 たなら 練 ひて、ものをやぶり人をそこなひ、 「一定のきまった仕事と財産がない人間は安定した心はない。百姓は農耕にいそしんで五穀を生産し、職人たちは精を出して農民を助けることに努め、 商人は産物を諸国に流通させることに努め、それぞれが仕事に精を出して家を豊かにし、先祖をまつり子孫の繁栄を図る ほかに人間として何をなすというのであろうか。『史記』の中で諺にも言っている。『金持ちの子弟は刑死して市中にさらし首にされることはない』、『富貴の 人は王侯貴族と同じような楽しみができる』と。本当にその通りで、淵が深ければ魚は悠々と泳ぎ回り、山が奥深ければ 獣がよく育つというのは、天地自然の理にかなった 道理である 。ただ『論語』に『貧しいままでしかも楽しむ』 という 言葉があって、それが字を学ぶ学者や韻を立てる文人たちの 迷い をひき起こす端緒となっており、弓矢をとる 武士たち までが 富貴は国の土台であることを忘れ、 つまらぬ 兵法・武芸にばかり熱中してはものを破壊し、人を殺傷して DATA FI LE 次の文は『雨月物語』の中「貧福論」の中の一節で、「黄金の精霊」が岡左内という武士に語る場面である。 上 うえ 田 だ 秋 あき 成 なり 『雨月物語』 早稲田大学

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