語彙・テーマ

解説 何を言っても話が合わない、何をしても 癇 かん に 障 さわ るという人は、誰にでも一人や二人はいるものです。そうした人 に対しては、挨拶だけは欠かさずして、できる限り相手の言い分を聞いて穏便に事を収めるというのが、大人の付 き合い方です。例文で言う「生体内で不快と共存している快楽や安らぎ」というのが、これにあたるでしょう。 そうではなく、論破して相手を完全に言い負かす、 在自体を無視するというのは、 「不快のない状態としての『安 楽』」 を求めるものです。嫌な相手を消し去れば、不快から解放されるように思えます 。しかし、実際にはどうでしょ うか? 一人を消したら、アイツも、そのまたアイツもと、際限がなくなります。あるいは、自分が誰かに無視さ れる恐怖に襲われるかもしれません。 「煩悩」という言葉を聞いたことがあると思います。仏教において説かれる、自己に執着して欲望にとらわれる 心のことです。 煩悩は、ある欲望を満たしても解消されません。あれもほしい、これもほしいと、かえって煩悩の 炎は燃え盛りま 同様に、ある「不快のない状態としての『安楽』」を手に入れても、それで心が安らぐことは ありません。 例文の筆者である思想家の藤田省三氏は例文の別の箇所で、この状態を「安らぎを失った『安楽』という前古未 曾有の逆説」と的確に表現しています。自分のことか考えないエゴイズムの、行き着く先と言えるでしょう。

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