語彙・テーマ
かつてある社会学者は次のような指摘をしたことがある。 家族という集団は「あれは、やっぱり、こうしておこうね」 というようなナンセンスな言葉で用が足 りるほど濃い液体 でみたされているものであって、もし言 葉が必要な事態が 発生したらまったく無力である、と。い かにも生活実感を なぞったようにみえるこの指摘は、いま や牧歌性すら感じ させるかもしれない。それほどに 家族のあり方が関心の集 中点となり、切実に言葉が必要な事態が 生じている のであ る。そして、その「事態」は、家族の無力さよりもむしろ、 このような指摘そのものの無力と虚偽性 を明らかにせずに おかない。 (市村弘正『小さなものの諸形態』) 語句 〈例文〉
199 虚偽 真実ではないのに、真実であるかのよう に 見せかけること。
ナンセンス 意味のないこと。また、そのさま。 牧歌性 牧人や農民の生活を詠った牧歌のように 素 朴である性質。 「牧歌的」については P 参照。
社会学 人間がつくり上げている社会で生じてい る 問題や現象について、統計などに基づい て 分析する学問。
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