センター現代文一問一答必修編
特典版
【本書
センタ
1 短時間で集中して解 そこでこの問題集では、センター現代 一問を5分程度の短時間で集中して解く を身に付けていきます。 2 受験生1500人の正答率(&選択率)掲載! この問題集の大きな特長の一つは、各設問の「正答率」が示 「各選択肢の選択率」も掲載しています。これらの数字は、 らしく見えてひっかかるのか」などを客観的に理解することで、本番でよくある「 どちらが正解か分からない」という事態に直面したときに発揮する、 センター国語の試験時間 なので、この めたデータです。 選択率を見ることで、 読解ミスの癖が把握 きる
一問一
45分は相当厳しい時間制限であり、
「何%くらいの人が同じ選択肢を選んでいたのか」が一目で分かり、自分 ようになります。また、 「この選択肢はどの点で不正解なのか」 「この選択肢
80分のうち、現代文にあてられ
必修編
実際に同じ問題を1500人の受験生に解いてもらい、集
「確実に正解を選択する力」
45分。ところが評論、小説とも
「一問一答形式」
「速く正確に読解する力」
を鍛えられます。
を採用しました。
2
4 評論
3 「読む
解説では「正答率 に辿り着けるようにし センター現代文「評論」では哲学・現代社会・芸術・日本 「小説」では夏目漱石など明治の文豪から吉本ばななといった 況把握、そして人物関係や心情の読解が求められています。 この二つの異なる分野を制覇してこそセンター 文を攻略したことに をなくし、また設問形式や問題の傾向などもバラエティに富んだものに対応 からバランスよく選びました
チェック1
チェック3
チェック2
+ 解く + 選ぶ」で [ 読 む ] … 本文の要約を中心に、文章を読 [ 解 く ] … 解答の根拠を本文 からどうやって [ 選 ぶ ] …「読む→解く」の流れを受け、いかに
12題+小説
12題、一問約5分×
。 「評論
12題+小説
24日間で完成!
12題」 、一問約5分×
「読む+解く+選
24日間で1ステップ完成です!
の三位一体のチェ
3
1 「必修編」では、 ようにし、センター本番で7 2 この問題集は「一問一答形式」になっ 3 解き終わったら、次のページから始まる解答・解 法や選択肢の切り方等、 「読む+解く+選ぶ」の三つ 4 この問題集は短期集中で取り組むのがオススメで、その効果 一周することを目標にしてください。間違えた問題はしっかり復 【本書 間違えた問題に関しては、少し時間を空けてからもう一度復習するようにしてください。現代 しない人が多く見られるのですが、 「どこが間違えたポイントなのか」 「二度と同じミスをしな のか」など、振り返るべき点は実にたくさんあるのです。 ください。 この問題集でセンター現代文読解のベースを固めたら、次のステップの ● 次のステップ へと進みましょう。正答率 センタ
一問一
●
正答率
50%未満の問題にチャレンジして、センター本番で得点率
50%以上の問題
必修編
をセレクトしています。
『センター現代文一問一答問題集
しましょう!
9割超えを目指していきます
完成編』
24日間で
。
4
▪「 赤色のアミ
「筆者の主張の反対」 、 ただし、今 において復習 にはどうしたらい
「評論」 で書いた内容やキーワード」 非常に大切で、問題を解くうえでも重要な役割を果たします。この問題集す た価値観を示していきますので、 することを習慣付けてください が張ってある部分は、 ド」 を示しています。解説文中で や情景描写においてプラスの価値観 「小説」 面でマイナス センター現代文では、こうした
の解説の中で、
の解説における
灰色のアミ
⊖
⇔ の もの、あるいは行動や情景描写においてマイナスの価値観
赤色のアミがかかっている部分は 「筆 赤色のアミがかかっている部分は、登場人物の心情面
」と「
を示しています。解説文中で
。
本文読解だけでなく選択肢解法においても
プラス
プラス ⊖ となっているものも同じです。
⊕
を持つもの
⊕
⊕
マイナス
⇔
です。逆に
マイナス
⇔
⊖ の対比的な価値観を判定しながら読解していくことが
⊖ 」の記号について ⊕ となっているも も同じです。一方、 灰色のアミがかかっている部分は、登場人物の心情
必ず復習するよう
プラス
⊖
を持つもの
⊕
マイナス
です。
⊕ のもの、あるいは行動
⇔
⊖
灰色のアミ
を常に意識
5
■ 評 論 第1講 『陽水の快楽』 『日本の庭について』 第2講
第8講 第 12講 『 「書くこと」 の衰退』
第7講 第 10講 『文化的支配に抵抗する』 第 11講 『聴衆の 「ポストモダン」 ?』 板野のコラム 『 住居空間の心身論 第9講 『都市の憂鬱』
第6講
第5講
第4講
第3講
本書の特長
本書の使い方
目 次
『空間 『哲学の風景』 『ファジィ理論の目指すも 』
『サウンドスケープとデザイン』
『 「私」 とは何か』
板野のコラム
板野のコラム 〈機能から様相へ〉
板野のコラム
沢田允茂
竹田青嗣
富永茂樹
浜田寿美男
④
③
②
①
― 「奥」 の日本文化
山本健吉
近藤譲
』 原広司
中西新太郎
渡辺裕
菅野道夫
鳥越けい子
』 狩野敏次
4
2
75
67
61
55
49
48
44
43
38
33
28
27
20
16
15
8
■ 小 説 第 14講 『肉親再会』
第 24講
第 23講
第 20講 第 22講 『典子の生きかた』 『鼠』 第 21講 『剣』
第 18講 第 19講 『護持院原の敵討』 『幽霊』
第 17講 『楽隊のうさぎ』
第 16講 『僕はかぐや姫』
第 13講 第 15講 『項羽と劉邦』
『送り火』
『雨の庭』
『道草』
板野のコラム
堀辰雄 三島由紀夫 板野のコラム
板野のコラム
板野のコラム
板野のコラム
北杜夫
夏目漱石
加賀乙彦
堀江敏幸
遠藤周作
司馬遼太郎
松村栄子
中沢けい
⑨
⑧ 伊藤整
⑦
⑥
⑤
森鴎外
162
152
151
144
143
137
132
131
125
119
113
106
105
99
94
93
86
評 論
センター現代文
一問一答問題集
必修編
第1
次の文章を読んで、 ♬さみしい時は男がわかる
私も つい 0
ラララ…… これが女の姿なら
ほろりと涙流してしまう
悲しい歌が聞こえてきたら
女は清くやさしく生きて 電車にのれば座席をゆずり
私も つい 0
ラララ…… これが男の姿なら
笑顔で隠す男の涙 男は一人旅するも だ 荒野をめざし もの
0
0
あこがれてしまう 0
あこがれてしまう 0
制限時
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
( 「あこがれ」井上陽水)
5 分
日本音楽著作権協会(出)許諾第○六一七二七七− ○○二号
実施日:
月
日
8
第1講 評論
「あこがれ ば 誰 だれ にもわかる。五 ていた少女が、ある マン的世界の崩壊あるい だが、 「あこがれ」が、いか あこがれてしまう」という最後 たとえば、次のような青春喪失のモ ものだ。 たとえば、母親がまだあどけない子供にむかって、 「おお、かわいそうに、誰がお前をいじ ♬やすらぎの時が 遙 はる かな夢を捨てきれないままに ♬これが青春時代の甘い心の痛みの音か ここで歌われている情感は、じつは青春の喪失や崩壊の体験とはべつに関係 な 今こそ笑って 熱い血潮は逆まく胸に…… 何かが終わって こわれて
落ちた!
別れを言おう
そして何かが
青春ならば
あゝ ( 『青春時代』アリス)
( 「さらば青春の時」アリス)
あこがれ 0
0 物語 0 0 〉 化 0 された形で現れていると言ってよい 0 0 を歌ったも
陽 ひ のあたる真冬の
日本音楽著作権協会(出)許諾第○六一七二七七− ○○二号
日本音楽著作権協会(出)許諾第○六一七二七七− ○○二号
ない 0 0 。そのこと 容 い れる、というものだ
自己哀惜 0
0
0
0
と呼ぶべき
坐 すわ っ
9
びかける への規制、制 によって訪れ こ A だからこういう歌は、 るのは、青春というロマン る。この一句は、意味の上からは単に、 分はあこがれる、と歌っているだけだ。だ た イメージ 0 0 のである。 こういったロマン的定型に
ある。
(注)
カタルシス
0
0
が一般に若い男女にとってあこがれの対象であ
― ―― 心の緊張を解消すること。浄化。
較 くら べてみると、 〈私もつい
あこがれてしまう〉は、なんとも奇
カ (注) タルシスであ
しまう 0
0 (竹田青嗣『陽水の快楽』による)
ここでモチーフとして
センチメンタル 0
0 0 」というフレーズは、こういっ
0
0
0
0
0
なものにしている
0 含 コノート 意 しているので
他人による承 0
イメージ 0
0
0
0
0
0
自 ナルチシズム 己愛 0 0 0
に、自
10
第1講 評論
問 傍線部A「だからこ うな理由から「大人にも
ちから一つ選べ。
1 小さな心を前提として成立するカタ 2 母親があどけない子供に呼びかけ とい 3 青春の喪失の体験と無関係なロマン的世界の 4 他人の承認によって訪れる規制の解除を前提とし 5 母親によって自己愛への規制や制限が される い
1 ~ 5 のう
11
対比構造を押さえることは、センター評論読解の基本 である。ここでは、 「ロマン的定型」である と 「陽水の『あこがれ』 」 センター最頻出の「対比構造」をつかめ! 読 む 2% 選 択 率 チェック
てほしい。 「ロマン的 (世界の喪失という) 定型」 は、 簡単にいうと、 「青春時代の終わりをモチーフ(題材)とした詩のパター ン」ということである。
第1講
1 2
5
1%
1%
3
5%
正解 正解
1
4 ・ 5 4
の対比関係をきちんと理解し
4 91%
本文の内容・構 造はかなり難解 で本格的であっ た。
選択肢が比較的 分かりやすかっ たため正答率は 非常に高いが、
「アリスの詩」
正答率
91 %
「アリス としているが 〈自己哀惜〉とは基 される(=君はかわいそ な心的カタルシス(心の浄化 見モチーフは「青春時代」に限定 曲の〈自己哀惜〉の情緒は大人でも子 とができる。 それに対して、同じ「ロマン的定型」である いわば、そんな世界はもう通過したよ、という幻滅の自 覚すら示しているのである。 「アリスの詩」 わいそうだ!) 『あこがれ』 」 あこがれの対象(=幻想)にすぎないと客観化
マン的定型」でも、実は対比的な内容を持つものである ことをつかもう。 センター現代文読解の基本は、筆者の主張側である と、その対比内容である に銘じてほしい。
は、 ロマン的世界のイメージなど、ただの
は、この 詩の情感の中
⊖
と 「陽水の 『あこがれ』 」
と筆者は指摘す
⊖をつかむことにあることを肝
⊕ は、 同じ 「ロ
している。
「陽水の
⊕
12
第1講 評論
[結果]
傍線部「大人にも子供にも る原因、つまり「因果関係」を [原因]
チェック 因果関係を構造 解 く
要素ごとに○×を付ける !
↓ だから
基本的には他人による承認によっ 大人にも子供にもあまりかわりなく、定型 情動をよび覚ます
2%1%5% 91%1%
2
傍線部の冒頭 直前がその原因と この歌のテーマである 他人が承認してくれれば成 だろうと子供だろうと……つま 感受できる、ということである。 「だから」や「したがって」等 示さ 後の因果関係は常に気をつけて読解したい ター現代文読解の基本といえる。
だから
や世代に
」があるので
。これもセン
関係なく
13
「他人の承認」を前 に限定されない」という んと押さえれば一発で選べた なので、ここはハズせない。しか 必ず消去法できちんと処理しておこ 1 は「小さな心を前提として成立する」と 提がナシで×。 本文 書かれていない内容を 肢は×になる この問題集の解説 は、本文に チェック 正解を選択後 選 ぶ
う形で 2 と 5 は「母親」の事例に限定しているから×。 これはあくま 筆者の挙げた具体例にすぎない。 説明していく。
。これもセンター現代文解法の大鉄則。
3
4 が正解。
「ナシ」=「×」
。正答率
因果関係をきち
91%の問題
とい
3 は「青春の喪失の体 の喪失」という前提が× 代表例が「青春の喪失」なの
板野先生から
14
第1講 評論
1 センター現代文の基本的 肢を×して落とす」という「 るための「消去法」は得点を安定 ➡ 基本的に「、 」で要素に区切るとやりやすい ➡ 慣れてくると選択肢同士の要素を比較検討することで正解 「選択肢 の有無、筆者 価値観の確認等、設問に応じた選択肢の要素の正否を素早 ➡ センター国語は「時間との戦い」でもあり、いかに「速く正確な読解が きる 通じて、正確な読解力を付けると同時に、 「速読速解」の訓練を積んでいこう。 1 「要素に分ける」 2 「本文と対照させる」 3 「各要素の正否を確認する」
≒ 本文」の正確な対照ができるようになることが、 センター現 板野のコラ 「消去法」
:それぞれの
:要素ごとに本文と対照させて、内容を比較検討して
:対比されている内容、キーワードの有無、指示語がある場合は指示
選択肢の文章を、要素ごとに分けて考え
といえる。そこで「消去法」の具
正解が選べても、それ以外の
15
第2
次の文章を読んで、後 ヨーロッパ式の庭園は、左右相 を出した泉水や、丸く刈り込んだ樹 示しているところに特色がある。それは さえ施 ればそのまま最初の形を保持 庭園において動かない造型を作り出すというこ のジャンルに準じ 、庭園も考えられているという ところが、日本では作庭をも含めて、ことに中世期にそ など――においては、永遠不変の造型を願わないばかりか、 ている。不変とは、ピンで刺した の多くの芸術が志向するものが永遠に わることのない、美しい堅固 て 止 や まぬ生命の輝きなのである。生命が日本の芸術、この場合は日本の庭の、 私はそれら日本の芸術家たちに 自分の作品を永遠に残そうという願いが、本 術観では、芸術とは自然を素材にして、それに人工を加えることで完成に達せしめ し変容せしめよう が永生への望みを達するのである。
制限時
という意志がきわめて強い。それが芸術家の自負するに足る創造であって、それによっ
5 分
揚 あげ 羽 は 蝶 ちよう の標本のように、そのまま死を意味する。それに反して変化こそ
標 しる しなのだ。
実施日:
A 造型し構成
月
彼 かれ 等 ら 自身
俳 はい 諧 かい
日
16
第2講 評論
造型意志が やはり日本人が 彼等は自分たちの生 問 傍線部A「造型し構成し変容せしめよう 1 ~ 5 のうちから一つ選べ。 1 変化し続ける自然を作品として凍結することにより、 2 時間とともに変化する自然に手を加え、永遠不変の完結し 3 常に変化する自然と人間の生活との親和性に注目し、両者を深 4 変化こそ自然の本質だ する考えを積極的に受け入れ、消え去った 5 芸術家たちの造型意志によって、自然の素材の変化を生かしつつ、堅固
(山本健吉「日本の庭に
17
含め 理解してほしい。 [日本人] ① 人間と自然を連続したものととらえ、自然との親和 関係(調和・一体化)を保とうと考える。 選 択 率
今回は最頻出のテーマだ。引用に先立つ本文に書かれ ている芸術論をまとめるので、
第2講
チェック 日本人とヨーロッパ人の芸術観・自然観の違いを押 読 む
1
3%
4
2% 3
正解 正解
5
3%
9%
1
4 ・ 5 2
2
83%
プラ ス
⊕
⑤がなぜ×にな るのか、きちん と消去してみて ほしい。
正解した人も、
⑤は、なかなか レベルの高い選 択肢であった。
⇔ マイナス
正答率
83 %
⊖
も
部の根拠(原因・理由)となる。 [ヨーロッパの芸術観] 「芸術」=自然を素材にして、それに人工を加えること で完成に達せしめられた永遠的存在 (なの だから [ヨーロッパの芸術家] 造型し構成し変容せしめようという意志がきわめて強い
②「日本 遠不変の造形 はむしろ消え去 [ヨーロッパ人] ① 自然を対象化し、その征 ②「ヨーロッパの芸術家」は に変わることのない美しい堅固な 強い造形意志を示す。 傍線部の直前に「だから、 」があるため、直前が傍線 因果関係を押さえて解く! 解 く チェック
、 )
2
=︻結果︼
=︻根拠︼
18
第2講 評論
対比要素以外のものにだまされるな! 選 ぶ 要素ごとに○×を付ける !
が×。これは るので、これが正解 3 の「親和性に注目」 「深い『縁』で結んだ」は、 ともに 日本人の自然観を示すもの
1 は「一瞬の生命の示現を可能にさせ する」という表現も不自然である。 2 は「自然に手を加え」 「永遠不変の…作り出そう とする 」と ヨーロッパの芸術家の要素 チェック
3% 83%3%2%9%
日本の芸術家の目標
3
なので×。
である。また「凍結
が完全に入ってい
ようとす
る」
人の価値観 日本対西洋の図式以外の、本文に書かれていない内容 にだまされないようにし い
4 は「変化こそ自然の本質だ」が、 た前提も本文にナシで×。 5 は「自然の素材の変化を生かしつつ」という条 件が余分なので×。自然はあくまで「素材」であって、 それに人工を加える造形意志の強さが西洋の芸術観の 特徴である。 また後半 「
なので×。また 「消え去った後も…」 といっ 板野先生からの学習アドバイスをチェック!
堅固な…
。
再構成」 もナシで×。
日本
19
3
次の文章を読んで、後 ことばが語と文法からなるとい ことばには、一つ、決定的に欠ける はそもそも他者とのかかわりの場で働く かわりが見えてこない。 もちろん、ことばを道具として獲得したのちに 話はことば獲得の結果であって、それ以上 もので それによってはじめて他者との対話が可能になるのであ るという発想がない。つまりこ ばそのもののもつ第一次的 てい のである。このことば観によっては、ことばが私たちの生 身体とことばを共通の糸でむすぶのは、おそらくこの対話性である。 身体とことばのかかわりを見てとることはできない。現に〈語―文法〉的 がまったく見えないように、私には思える。 では、私たちはどのようなことば観のもとに出発すればよいのか。ともあれ、まず るその現場を、い つかの例から取り出して見てみることが必要となる。 「ことば 宇宙」と う言い方がある。それは私たちが、直接 目で見、耳で聞き、手で触
制限時
6 分
独 (注) 我論的で、そこに他者とのか
実施日:
月
日
20
第3講 評論
ことばがこ はまる。 しかし、もとよりこ 立つのは、人々がその生 まだ大海にたらしたほん 一 長い過程をへなければならなか 日常的に体験することばの多くは、 は少ない。 「あっ、雪!」 、幼い息子が叫び声を上げる 舞い落ちてきて、その雪の一ひらが 世界を目の前にしてことばを発したのであり、 また聞 そこでことばが身体の世界に寄り添い、そこに重なる。こ の世界への窓が、ここにわずかであれ開かれたと言ってもよい では、こんな場面はどうだろうか。閉めきった障子の内で火鉢にあ んだ声が飛び込んでくる。 あっ、雪! ここで私は、自分の身体でその雪を直接に感覚してはいない。にもかかわらず、子ども 世界が立ち上がる。自分が身体でじかに体験しているのは部屋のなかの光景、そ うえに不
頰 ほお にあたる。こういう場面を私がじかに体験したと
餅 もち を焼いている私の耳に、外から子どものはず
比 ひ 喩 ゆ がぴたりと
21
もう一つ とんど臨場し しかし、次のよう 庭でコマ回しに興じていた らりゆらりと舞い落ちてくる。 ここでも私たちは、しっ りその雪の落 団 う ち わ 扇 をバタバタやっていたとしても、その雪の れて、 それだけで一つの世界を立ち上げる、 そ きり見ることができる。 (注)独我論――哲学用語。自分の自我だけを絶対視するような考え方のこ
A ことばの世界と身体の生きる世界の二重化
(浜田寿美男『 「私」とは何か』による)
をはっ
22
第3講 評論
問 傍線部 のを、次の
1 他者の身体が体験している現実 のうちに受け止められるようになる 2 ことばがことばだけで独立 た世界を生 界をありありと感じ取ることができること。 3 息子の発する「あっ、雪!」ということばが、そ げた世界が、身体との対話性を持ち始めること。 4 ことばによって なり合うように感じられること。 5 息子の発する「あっ、 雪!」という声に「雪」を実感することで、 生き生きと立ち上がってくること。
A「ことばの世界と身
1 ~ 5 のうちから一つ選べ。
喚 よ び起こされる想像の世界と、私たちの身体が現実に向かい
23
「言語論」は、文系理系を超えた普遍的なテーマであ るため、 センター評論における定番の一つとなっている。 しっかり読み込んで、知識のネットワークを広げていこ う。 〈語―文法〉的なことば観では、 「語句」や「文法」の 存在を最重要視し、そのルールに則ってコミュニケー ションを取る、 つまり、 「対話性」 を二次的なもの
第3講
「言語論」の基本を理解せよ! 読 む 選 択 率
チェック
1% 6% 15
正解 正解
4
8%
3
9%
1
4 ・ 5 2
2
76%
指示語から解く、 センター最重要 パターン。③の 人は、選択肢へ の執念不足。④ の人は、ここで 指示語パターン を習得せよ。
正答率
76 %
とする考 め込め!」と ことば観による それに対して筆者は 話性」に見ている。従っ に根ざしているのだ、という である。 〈語―文法〉的なことば観 =ことばは語と文法から成り立っている。 〈身体―対話〉的なことば観
者や詩人の〈身体〉から発せられたものであり、だから こそ、われわれの〈身体〉が感得することが きるので ある。
=ことばは身体の世界に根ざしている。 ところが後半では、 『身体の生きる世界』とは別に、 ことばがことばだけで『ことばの宇宙』を成り立たせる という、やや逆説的な内容が展開する。 しかし『こ ばの宇宙』を構成する「ことば」は、筆
⊖
⊕
24
第3講 評論
『ことばの宇宙』 傍線部中や傍線部の直前に指示語がある場合は、まず は指示語が指し示している内容を押さえ、それが選択肢 中に含まれているかどうかを確認せよ 傍線部直前の指示語に注目せよ! 解 く チェック
ワードや内容がほぼそのままの形で選択肢の中の要素に なる場合が多い。 指示語の習得は、現代文攻略の最重要課題である。絶 対に見落としのないように注意して解い ほしい。
省略してあ それでいて身 る」と結んでいる
→ 〈身体〉
「 ことば
↓ 〈 身体〉
2
↓
」
→ 『身体の生きる世界』
。指し示すキー
ここまできた だけで一つの世界 ↑ そこに ことばの世界と身体の生き きり見ることができる。 「そこに」 という指示語をたどると、 もう一度 ういう」があり、それをさらにたどったところに世 「二重化」の説明が書かれている。ここでいう世界の 重化とは、 「ことば独自の世界」 「身体の生きる現実 世界」のことであり、私たちはそれをはっ りと見るこ とができるのである。 ここで気をつけておきたいのは、そうした「ことば独 ↑ そういう力
重化」という語にだまされて、二つの世界が「重なって いる」と解釈しないようにしたい
自の世界」は私たち 生きる「現実の場面を離れて、そ れだけで一つの世界」を形成しているという点だ。
をもつと言える。
ことばは現実
、
。
「二
25
「自己」という形での説明も×。
傍線部直前の指示語「そこに」が指し示す内容と合 致するのは、 世界を生成し」だけである。ズバリこれが正解。 チェック 指示語の指し示す内容を押さえて解く! 選 ぶ 要素ごとに○×を付ける !
3 は 「身体との対話性を持ち始める」 が×。
1 は 「…現実の情景」 という前提が×。また
6% 76% 9% 8% 1%
3
2 の「ことばがことばだけで独立した
「対話性」
「他者」
は本文前半のキーワードであったが、ここ では余分 。 4 は「一致して重なり合う」が×。現実の世界と は〝別に〟ことばの世界が立ち上がるのである。傍線 部の「二重化」だけで想像してはいけない。 5 は 「声に 『雪』 を実感することで」 という条件が×。 「その場に居合わせながら」という前提も×。 板野先生からの学習アドバイスをチェック!
26
第3講 評論
2 センター評論で、 解答の (※1990~2016年の 大きくいうと、センター評論では傍線部の前後6行以内 にも上る。残りの 解ける(詳しくは『現代文ゴロゴ解法公式集1 80%以上の傍線問題が傍線部の前後6行 で解ける イルの習得はセンター評論の攻略上避けて通れない。本文で傍線部に至っ らもう一度本文に戻り、 「傍線部の前後6行以内(内容的な区切りを優先す ていこう。それでも根拠が見つからない場合に限り、視野を広げて解いていくの 前7~ 前6行以内 傍線部自体 後6行以内 後7~
20行以内
18行以内
に解答の根拠がある
に解答の根拠がある
に解答の根拠がある
板野のコラ センター評論
に解答の根拠がある 19・ 0%も、 「因果関係」 「指示語」 「対比構造」 「A に解答の根拠がある
……
……
…………………
……………
……………
センター試験編』を参照のこと) 。
27・ 3%
51・ 2%
11・ 6%
2・ 5%
7・ 4%
以上、速度優先の解き方として、
→ 具体例・引用
→ A´ 」という形に着目すれば
「読みつつ解く」
というスタ
81・ 0%
27
次の文章を読んで、後 同時にいくつもの像を重ねて見 たとえば、文学作品が鑑賞者の意識 らを重ね合わせる操作も、私たちが実際 識がとらえた空間に関するはたらきである 窮極としては両者は同じものなのである。とす ある種の空間にたいする認識が文化 底流にあると 〈境界がさだかでない〉という現象は、日本の空間、よ 界があると同時に境界がないような空間の連続性、あるいは 建築には強い壁が少ない。ふすまや障子がそ 好例であり、部屋 的にいえば強い境界はない。 「 あいまいな領域がある。まったく日本の住居ほど領域分析がやっかいな住 るのは、もちろん例外はいくらでもあるが、日本の住居ほどやっかいでない。 フリカ 複合住居(コンパウンド)のように、極めて複雑な構成をもっていても、 をはずす、ふすまをはずすといった想定を入れれば、壁とは異 ったあいまいな領域規 析はまず不可能である。そうした仕切り方からくる分析は、日本の伝統的な住居には適して 第4
制限時
借 (注) 景」が、ひとつの美学的な手法になっているほどである。部屋の外に
3 分
想 おも い出して重ね合わせるのも、同じように
実施日:
月
日
28
第4講 評論
の壁をたよ 日本の伝統的住 えられてきた。これ ない領域に秩序をあたえ 性格〉でとらえるところから 問 傍線部A「傾向分析」とは、どのような分析のことか。最 (注) 借景――庭園外の遠山や樹木などを、庭園の景
1 確かな境界としての壁をたよりにした物理的な分析 2 社会的な上位・下位の関係 絶対的な基準とした分析 3 境界がきわめて不明確で、形が定まらない抽象的な分析 4 特定の主義に基づく、一つの方向にかたよった主観 5 見えない領域に、ある価値観から相対的な秩序をあたえる分析
拠 よ った空間把 はれ 0 0 と け 0 、表と裏、上手
(原 広司『空間〈機能から様相へ〉
1 ~ 5 のうちから一つ選べ。
A 傾向分析
によってとら
29
文化の底流には、 「空間概念」と呼ばれる、ある種の 空間に対する認識がある。現代文では、それを取り上げ て論じたものが多く出題される。特に日本と西洋の空間 概念の違いを対比的に論じたものが頻出するので、テー マとしてしっかり理解をしておこう。 以下に本文の内容を要約するので、日本の空間概念 特性を理解していこう。
第4講
チェック 日本の空間概念を理解する! 読 む 選 択 率
2%
3%
1
2
正解 正解
3
1
23%
4 ・ 5 5
5
6%
4
66%
③と⑤を見極め るのが勝負どこ ろであった。二 つの選択肢 ど う違うのか、選 択肢同士 比較 検討が重要であ る。
正答率
66 %
の
日本の空 うことである としない空間把 れているのである。 ど領域分析がやっかいな 日本では障子やふすまをはず 器としての性格〉をもつ空間把握とは な領域規定 日本の伝統的住居の領域分析は、 たとえば、 非日常・特別の日) 』と『け(=日常・普通の日 と裏」 「上手と下手」 「縁と奥」といったような、傾 析によってとらえられてきた。 これを一般化すると「しつらえ」であり「座」であり、 領域を漠然と指定する手段といえる。この見えな 領域 に秩序を与える方法は、日本人が 空間をとらえるところから生まれている。 が可能なので、
が必要になる。
確かな境界としての壁
〈境界が
〈場としての性格〉
をたよりとした
〈容
で
30
第4講 評論
(日本の伝統的住居の 傾向分析 これ をより一般化すると、 「しつらえ チェック 傍線部直後の指 解 く ↓
このような概念 ころから生まれている。 がなくとも、
である。 これらは い領域に秩序をあたえる方法
要素ごとに○×を付ける !
(によってとらえられてき
、 領域を漠然と指定する手段
2%3% 23%6% 66%
空間を〈場としての性格〉でとらえる
は、 物理的な壁
2
である。
(エンクロージャー)
であり、
見えな
と
今回は頻出 ヒントを求め でなく、傍線部の 意力を持って挑んでほ 傍線部の「傾向分析」を指 が進み、さらに「これら」 「こ けて論が展開していくところを正 日本の伝統的住居 領域分析は、 「し という領域を漠然と指定する手段であり、 (境界線) いう 「傾向分析」 でとらえる
はないが、 ところから生まれる。
をもつ。それは
見えない領域に秩序をあたえると
。
空間を 〈場としての性格〉
31
3 と 5 の二択で勝負 選 ぶ
という本文の内容を解釈し間違える 選んでしまう可 能性がある選択肢なので、これは、 で消去したい選択肢である。
1 は「確かな境界」 「 の空間概念と反する内容 2 はまず「社会的な上位・下位 ので×。縁と奥など、他にもさま 在する。また「絶対的な基準とした 領域を漠然と指定するという内容に比べ すぎる。 3 はかなり迷うが、指示語をたどったところの本 文に書かれているように、空間に のが正しいので、 ではおかしい。 「空間を 〈場としての性格〉 でとらえる」 チェック
3
「形が定まらない(=秩序がない) 」
なので
×。
「秩序をあたえる」
5 との比較検討
解法としては、一度 2 4 を消去したあと、残った 文と対照させて×する、とい ほしい 。 4 は「主観的な」が×。空間を、場と でとらえるのである。 それゆえ 「一つの た」という説明も限定的なので×となる。 5 の 「相対的」 は、 「比較や関係によって決まるさ である。つまり、絶対的な基準ではなく、その場の性 格を傾向分析して 「秩序」 をあたえるということで 間を〈場としての性格〉でとらえる」という 容に合っているので、これが正解となる。同時 が×と判断できるところも大切だ。
板野先生から
5 と比較しながら本
本文の内
「空
、
3
1
32
第5講 評論
次の文章を読んで、後の 人間の生活空間のなかに知覚さ いま、私が まれて以来ずっと住み 松の木、その少し左手に小さな池と泳い 口に過ぎない。見慣れた入口だけ らば犬や かしふとした瞬間に、私は松の木を見て、昔、ま 出し、父と一緒に土を掘り、石で囲んであの池をつく たときの光景を思い出させる。このとき私はいま見ている 景に重ねて見ているのである。 は私たちが、 例えば角にある建物に隠れて、 止まっているバスの前 と見て急いで駆けていくときの「バスを見る」ときの見ると同じであ しかし前半部だけを見 、私は止まっているバスそのも を見ているのであ 前半部分ではなくて、バスのイメージそのもの全部を見ているのである。 イメージとはラテン語の いはプラトンのいうイデア、アリ トテレスのいう 膜の上では前半部しか見えていないバ を、心のなかではバス 全体の姿、形、パターン、 第5
制限時間
i イ マ ー ゴ mago が語源で、
4 分
A これは決して
雀 すずめ でも見ているし、私自身も多くのばあいはこ 比 ひ 喩 ゆ 的に「見ている」というのではなくて、ほんとうに見て るの 姿 すがた であり、外の事物に似た心のなかにある形であり、ばあいによっては、概念ある 形 エイドス 相 、現代風にいえばパターン認識のパターンと解釈することができる。網
眼 め の網膜に映じているのは車の前半部だけである。
実施日:
月
。それ
日
33
である。 本当にバスを 概念とを、言い換 れているのだから)心 も、私たちが思いにふけっ 見ているとき、私たちは過去の のである。 このような、過去、遠方、未来のイメー について ストーリー(物語)をつくり、 実と考えられる の事 の物語を主として指して使われるようになり 私は歴史という概念を、過去の出来事についての検討さ 目指しての歴史、言い換えれば未来の目的(あるいは歴史の 方も現実に存在している以上、過去、未来についてのすべての( 語を私は歴史と呼ぶことにしたい。
(注)
3 救済史
1 ヘロドトス 2 トゥキュディデス
物 ストーリー 語 のことを古代ギリシャ人はヒストリアと呼んだ
― ――――――――――――
― ――――――――――
― ――――――
ギリシャの最古の歴史家(紀元前四八四年~四二五年ごろ) 。 アテナイの軍人で、歴史家(紀元前四六〇年~四〇〇年ごろ) 。 聖書にもとづき、神による人間の救済を目的として叙述された歴史。
見え 0 0 と、心のなか
ヘ (注1) ロドトスや
ト (注2) ゥキュディデスによってヒストリアは過去
救 (注3) 済史という語が示すように将来の目的を
姿 イメージ を重ね合
(沢田
他 ほか ならない。十分に検討して真
允 のぶ 茂 しげ 『哲学の風景』による)
34
第5講 評論
問 傍線部A「これは決 うに見ている」とはどう
1 網膜で知覚したものを、言語を用い 2 網膜で知覚することよりも 通じ 3 網膜で知覚した今の風景に、過去のイメージ 4 網膜で知覚したものに、体験を通じて形成された 5 網膜で部分的に知覚したものを、イメージによってふ
1 ~ 5 のうちから一つ選べ。
35
本文は、人間の「知覚」について述べられている。人 間が外界を見ているとき、 A[網膜での知覚]と同時に、 B[イメージ]を見ているのである。 A[網膜での知覚] いま見ている風景(=歴史の入口) スの前半 対比構造をつかみながら全体を読解する! 読 む 第5講 選 択 率 チェック
1%
3%
1
2
・ 網膜上の〝見え〟
正解 正解
3
5
9%
21%
1
4 ・ 5 4
4
・ 肉眼 ・ 現在の思索
66%
・ 止まっているバ
かったようだ。
③や⑤といった、 内容を限定する 選択肢にひっか か っ た 人 が 多
本文全体の読解 を要求する問題 であったため、
正答率
66 %
ほんとうに見ている「これ」とは、A 風景」 うことである。 ここでのBは「過去」に限定しない、 幅広い「イメージ」 という とになる
B[イメ
過去の歴史 ものの本来の姿 将来(未来)のイメ このとき私はいま見ている風景 歴史 に入って、 B [過去の歴史] て見ている のである。 = これ は決して比喩的に「見ている」というのではなく て、 ほんとうに見ている チェック 傍線部中の指示語の指し示す 解 く
に、B
「過去の歴史」
・ バス全体の完
このあとバスの例が挙げられているので、
。
を、A
2
のである
[いま見ている風景]
を、 重ねて見ている
・ 心眼 ・ 過去・遠方・
。
・ 心のなかの、
「いま見ている
、とい
に 重ね
36
第5講 評論
要素ごとに○×を付ける ! 成 では、重ね合わせることにならない。 2 も「言語を通じて構成されたイメージ」という 定義がズレている。しかも、知覚よりも「イメージが 本来的である」といったような優劣関係は、本文から は読み取れない。 3 はまず 「過去のイメージ」に限定しているので × 。そして、二重化を「常に」と完全に断定している のもおかしい。センター評論 解法の鉄則として、 肯定や全否定の内容を含む選択肢は、本文に確実に根 チェック 指示内容をとらえられたか! 選 ぶ 1 は「言語を用いて…再構 の再構
1%3%9% 66% 21%
3
成 」がナシで×。知覚
「全
来」等をも含む、幅広い定義と判断できる。 5 は「知覚=部分的」 「イメージ=全体像」という 関係になっているが、それはバスの具体例に限ったこ とである。そし 、 う内容になっていない
拠がない限り×である」 基本的に「絶対」 「常に」 「必ず」などの全肯定 定を表す語がある場合は疑ってかかろう。 4 は「知覚」と「イメージ」を「重ねて知覚する」
ということで、これが正解。 「体験を通じて形成され たイメージ」は、
板野先生からの学習アドバイスをチェック!
本文にあるように
知覚とイメージを重ねて見るとい
ので×。
というものがある。
「過去」 「遠方」 「将
37
第6
次の文章を読んで、後 「あいまいだからよい」という られているわけである。 無限の奥行きと多様性を見せる人間の意識 限だし、一度に発話される文の長さも有限であ たせ、第二に、意味の多義性を ある。このことから、必然的に、ひとつひとつの言葉は に対して、多義性は副次的なものである 数倍 なる効果を生みだすだけで、このことは連続世界の多様性 語の使用は生きた人間の日々の
(注)
契機――そのものの成立のために欠くことのできない本質的要因。
制限時間
証 あかし である。言語が「あいまいだからよ 惹 ひ き起こすことになる。語られるべき世界の事物は連
3 分
。なぜならば、ひとつひとつの言葉が仮に数個の意味をもっ
他 ほか ならぬ言語である。言語は人間
(菅野道夫「ファジィ理論の目指すもの」による)
実施日:
契 (注) 機であって、言
A 言葉のこの性格
月
日
38
第6講 評論
問 傍線部A 「言葉のこ 最も適当なものを、次の
1 一つ一つの言葉が連続世界に対 ということ。 2 世界の連続的事物を語る際に言葉があい 3 言葉が有限であり生きた人間の日々の証であ とから生まれるものだ いうこと。 4 連続世界を表現するために言葉が意味内容の広がりを はほとんど効果をもたないということ。 5 連続世界を表現するために言葉が無限の意味の広がりをもつこ も、言語理論でいう分節化の効果をもたない いうこと。
1 ~ 5 のうちから一つ選べ。
39
[人間の意識の対象世界] = 「連続的」 見せる。 [言語の世界] =言葉の数も、 一度に発話される文の長さも を特徴とする。
第6講
チェック 言語と認識の関係をきちんと理解せよ! 読 む 選 択 率
対比的な二つの内容をまとめてみよう。
正解 正解
5
に連なり、無限の奥行きと
1
2 1%
6%
16%
1
3
16%
4 ・ 5 4
4
61%
以下の解説を読 んでから、もう 一度本文をしっ かり読み込んで ほしい。
①は消去法の初 歩的なミス。③ は読解力不足。
「多様性」
正答率
「有限性」
61 %
を
まずは傍線部中の指示語 理しよう。 [人間の意識の対象世界]=無限の奥 見せる [言語の世界]=有限性によって特徴づけら
↑ [対応策] 〈第一に〉
もたせる 〈第二に〉 る 。 →なぜならば、ひとつひとつの言葉が仮に数個の意味 をもったにせよ、… 言葉のこの性格
チェック 傍線部前後の構 解 く
意味の多義性を惹き起こす
ひとつひとつの言葉の意味内容に広がりを
に対して、多義性
2
ほとんど無力だから
は 副次的なものであ
である。
40
第6講 評論
有限な「言語 から投げても下から投げて ルも、 「投げる」という 葉が が傍線部 を受け持つこと
無限で連続 第一の対応策は、
第二の対応策は、
要素ごとに○×を付ける !
「言葉のこの性格」
16% 1% 16% 61% 6%
。たとえば「投げる」
言葉が多義性を惹き起こすこと
が指し示す内容であった。
がある
。
。多
義性とは、 げる」という ばす」 、 ②「かか 殺する) 」 ④ 途中 ている。しかし、意味が数 つまり〝オマケ〟のようなもの な世界に対しては、
ほとんど無力
である。
副次的
、
41
1 は「多義性は…無関 で×。ほとんど無力とは わけではない。前にも書いた の鉄則として、 は、本文に確実に根拠がない限り× のがある。本文には 「ほとんど無力」 と 関係」とは書かれていない以上、この選択肢 はいけない。 2 は「言葉=あいまいさを生み出す/多義性=あ いまいさを生み出さない」 という対比関係 ナシで×。 指示語内容も押さえられていない。 3 の「言葉=生きた人間の日々の証である」は、 チェック 指示語の指し 選 ぶ
第一段落に書かれて るが、 ここではまったく関係 ない 。 「言葉の性格」の指し示すものをとらえ間違え
ている点で大きなミスを犯して る。また「多義性= あとから生まれるものだ」と う定義もナシで×。
「全肯定や全否定の内容を含む選
3
4 は指示語の内容をき 性→ほとんど効果をもた 定義もバッチリ。これが正解 5 はまず前半の「言葉=無限の意味 つ」が×。意味内容に広がりを持た い過ぎである また後半の「新たな造語 節化の効果をもたない」は、いずれもナシで 板野先生から
ほとんど無力」という
≒
42
第6講 評論
3 センター評論では、指 ない年はない!」と言って ① 傍線部中、あるいは傍線部の直 ➡ 傍線部中や傍線部の直前に指示語 に含まれているかどうかを確認する。 ➡ 指示語を二回以上たどって戻らなければならな このパターンは、センター評論で最も重要なパター チェックすることを最優先にしよう。そのとき、 とだ。指示語問題の攻略は、センター現代文攻略の第一歩 ② 傍線部を指示語が受けて後に展開していくパターン! ➡ 傍線部の内容を受ける指示語があり、 その後に論が展開していく場 クしていくことが大切。 ➡ こちらも指示語を二回以上たどって戻らなければならない場合があるので注 難しい文章が出題されたとき、内容を把握しようと焦りすぎてしまうと、意外 現代文を正確に読むための第一歩は、 「指示語」を正確にたどる力を付けることだ ➡ 指示語問題の特徴としては、
板野のコラ センター評
指示語の指し示すキーワードや内容がほぼ
傍線部中だけでなく、傍線部の直前の指示語チェック
。その指示語問題は次の二
20%にも上る。
小説も含めると「指示
を忘れないこ
点にある。
43
第7
次の文章を読んで、後 「サウンドスケープ( る言葉である。つまり、視覚の陰に え方であり、同時に「聴覚」を切り口と とする考え方でもある。 たとえば「都市の景観」や「街なみ」といえば 匠など、 「装置」や「器」としてとらえた道の構造 えられ、そのデザインは専ら視覚的な観点から「形ある A こうした状況 なのは目に映る景観ばかりでない、ということに気づく。見た目 まな音によって構成されるその「聴覚的景観」 、 「響きとしての街な らには、アスファルトと土、砂利道とでは、その足音が違うのと同様 そ 気づくようになる。
(注)
ファサード――建物の正面、前面。
に、サウンドスケープという考え方が導入されたとき、わた 制限時間
soundscape
4 分
) 」とは、視覚的な「景観=ラ
(鳥越けい子「サウンドスケープとデザイン」による)
実施日:
フ (注) ァサードの意
月
日
44
第7講 評論
問 傍線部A「こうした
うちから一つ選べ。
1 視覚を中心とした状況の中で、 2 目に映る景観のみが重要視され、サ 3 主として視覚によって環境がとらえられ 4 五感の中で視覚が中心的な感覚であると考え 5 視覚の優位が主張され、専ら見た目 とらえた街
1 ~ 5 の
45
「形あるモノ」を対象として行われてきた。こうした状 況に 「サウンドスケープ」 対比構造の基本的な文章! 読 む 選 択 率 チェック
わたしたちの空間体験には、目 映る景観ばかりではな く、 「聴覚的景観」 「響きとしての街なみ」
センター評論頻出の対比構造の文章としては、かなり 読みやすい文章になっている。まとめてみよう。 都市空間のデザインは、 おもに
第7講
4%
1
正解 正解
5
10%
2 18%
4 12%
1
4 ・ 5 3
という考え方が導入されると、
3 56%
視覚的な観点
⑤はやや紛らわ しい選択肢とい えるが、指示内 容さえきちんと 押さえれば、容 易に消去できた はずだ。
典型的な指示語 問 題。 ②・ ④・
とでもいうべ
正答率
を中心に、
56 %
こうした状況 が導入されたとき、……大切なのは かりでない、ということに気づく。 設問は、シンプルな指示語問題。すでに何度も出てき たものなので、完全マスターをはかろう。 指示語が指し示す内容は指示語の直前から探すのがセ オリー。指示語内容が 判断も冷静に行うこと。
ようになる。
きものが 触、温度や湿
…… その(都市空間の)デザインは専ら視 から「形あるモノ」を対象として行われ チェック 指示語さえきちんと押さえ 解 く
=
⊖
に、 サウンドスケープ
2
今回は
⊕なのか、
も異なるとい
⊖だ 。
⊖なのか、という価値
目に映る景観
⊕ という考え方
⊖
⊖
ば
感
46
第7講 評論
要素ごとに○×を付ける ! 1 の「サウンドスケープの思想の重要性がようや く意識されはじめた状況」では、 てしまうので×。指示内容は チェック 指示内容を正確に押さえて正解しよう! 選 ぶ
2 の「サウンドスケープという考え方が無視され がちであった状況」 は、 サウンドスケープは新たに「導入された」考え方であ り、 以前から存在していたものが「無視」されていた、 というわけではないので×
4% 18% 56% 12% 10%
3
⊖の内容になっている。
。慌てて選ばないこと。
⊖だ。
⊕方向の内容になっ
しかし、
3 は、チェック2[解く]で整理した指示語内容 を過不足なくとらえている。これが正解。 覚」でとらえることは〝当たり前〟なのであって、意 図的に「聴覚」に副次的な位置を与えているというこ とではない。選ばないように気をつけよう 5 は冒頭の「視覚の優位が主張され」が指示内容 を正確に含んでいない点で×。 板野先生からの学習アドバイスをチェック! 「聴覚」 との対比が蛇足なので×。 「視
4 は 2 同様、
47
① A 原因 → B 結果
4 センター現代文にお 「評論」の場合、問いで「~ ➡ 一般的に順接の「因果関係」といわれる 一要素になる。この場合、原因にあたるA部 ては「だから」 「したがって」 「よって」 「~の かり持たないと間違った箇所を含む選択肢を選んでし ② A 結果 ➡ ①とは逆に、 先に結論を述べておき、 後でその理由を説明する 果」部分に傍線が引かれ、Bの「原因」部分が解答の根拠の一要 由説明されるはずだが、 なぜなら」の部分は省略されることが多い ない場合もある。この場合は、 原因にあたるB部分は展開していく中で説 傍線部よりやや遠い箇所にあることがある。 らえ間違えなければ正解するのは比較的容易だ う ②「理由説明問題」
→ B 理由説明(原因)
「理由説
板野のコ
、そして「具体例を選べ
「理由」
①とは逆の形だが、
。
が問われたら、どこに着目す
③「その他の問題」
素直な形だが、
展開していく中に答えの根拠がある
①「内容説明問題」
とに大別される。
「問いに対する答え」という意識
原因と結果をつなぐ接続語とし
と、 「~はなぜか」
ので、話をと
をしっ
48
第8講 評論
次の文章を読んで、後の 私たちは昼と夜をまったく別の 逆に闇そのものが空間を形成してい スキーは、夜の闇を昼の「明るい空間」 ……夜は死せるなにものかでもない。ただそれは 声を聞いたり、はるか遠くに 成するのとは全然異なった基盤の上に、繰り広げられるで 間の場合とはまったく た仕方で、自我に与えられるであ 明るい空間のなかでは、私たちは視覚によってものをとらえることがで を距離がへだてている。距離は 私たちと空間のあいだを「距離」がへだてているため、空間が私たちに直接触れ 一方、 A 闇は「明るい空間」とはまったく別の方法で私たちにはたらきかける 他の身体感覚が抑制される。ところが闇のなかでは、視覚にかわって、明るい空間のな され、その身体感覚による空 把握が活発化する。私たちの身体は空間に直接触れ合い、空 第8
制限時間
微 かす かな光が尾をひくのを認めたりすることがある。しか 物 もの 差 さし で測定できる量的なもので、この距離を媒介にして、私たちは空間と間接的 5 分
闇 やみ のなかにいると、空間のなかに
。明るい空間のなかでは視覚が優先し、 その結果、
於 おい ても、私は
実施日:
梟 ふくろう の鳴き声や仲間の呼び
月
ミ (注1) ンコフ
日
49
感じられ 暗い空間はな 闇のなかでは、私 あらゆる方向から私た 「深さ」は私たちの前にあ 身体全体に浸透する共感覚的な 近代の空間が失ってきたのは、実は 連続窓、ガラスの壁、陸屋根は、近代建 かける。明るい空間が実現するにつれ、視 は測定可能な量に還元され、空間を支配するの いに異なる意味や価値を帯びた「場所性」が空間か うして、場所における違い もたない 深さは、空間的には水平方向における深さをあらわしている この奥行が存在しない。なぜなら、均質空間はどの場所も無性格 と幅は相対化された距離に還元されてしまうからだ。均質空間では、 て、そこにあるのは空間のひろがりだけであり、深さがない。
(注)
1 ミンコフスキー
― ――――――――――――――――
ユ (注3) ークリッド的な均質空間ができあがる。 ( 狩 か の う 野 敏 とし 次 つぐ 「住居空間の心身論――『奥』の日本文化」による。ただし、本文の一部を改
フランスで活躍した精神科医・哲学者(一八八五~一九七二) 。引用は『生きられる時間』 による。
奥 おく 行 ゆき である。しかし、均質化された近代の空間には
ピ (注2) ロティ、
50
第8講 評論
問 傍線部A「闇は『明るい空間』とは にどのような状況をもたらすか。その説
3 ユークリッド
2 ピロティ、連
1 視覚的な距離によってへだてられていた私たちの させられる。 2 物差で測定できる量的な距離で空間を視覚化する能力が奪 させられる。 3 距離を媒介として結ばれていた私たちの身体と空間との関係が変容 込む深さを認識させられる。 4 視覚ではなく身体感覚で距離がとらえられ、そ 結果 して、空間と間接的 られる。 5 視覚のもつ距離の感覚がいっそう鋭敏に り、私たちの身体と空間とが直接触れ合 させられる。
― ―――――――――――
― ―― ピロティは、 の壁は、広範な 紀元前三〇〇年ごろのギ な屋根。
1 ~ 5 のうちから一つ選べ。
勾 こう 配 ばい が少なく、ほと
51
特徴を、きちんと対比的に整理していこう。 [明るい空間
第8講
まずは、 =視覚によってものをとらえることができる。 →私たちと空間のあいだ め、空間が私たちに直接触れることはない
チェック センター頻出の対比構造の読解は丁寧に! 読 む 選 択 率
6%
5
「 明るい空間
⊖
正解 正解
]
4 33%
1
1
4 ・ 5 1
⊖
」 と 「闇(暗い空間)
58%
「距離」がへだてているた
3 1%
2 2%
④は、 「間接的」 という語句の完 全なとらえ間違 い。たしかに① も一発で正解と はいえない選択 肢だが、詰めの 甘さを自覚して ほしい。
正答率
。
⊕
」 の
58 %
[闇(暗 =抑制されて され、その身体 → 私たちの身体は空間 の身体に浸透するように ひとつに溶けあう [明るい空間 [闇(暗い空間) 離」としてとらえることになる。しかし 」 の中では〝目が見えない〟ので、視覚以外 全感覚 を総動員して空間を感じ取らなければならない。 この状況を筆者は「空間が私たちの身体に浸透する」 「空間と私たちはひ つに溶けあう」 「なれなれしい」と 表現している。 「明るい空間 ⊖
⊖
] = よそよそしい 」 では〝目が見える〟ので、空間を「距 ⊕ ⊖
⊕
。 ] = なれなれしい
]
。
。
「闇(暗い空間)
52
第8講 評論
「 闇は 『明るい空間』とはまった →その(=闇の)はたらきかけは 状況をもたらすか? ↓ チェック 視野を広げた読 解 く にはたらきかける
要素ごとに○×を付ける !
58% 2% 1% 33% 6%
」
2
私たち
私たちの身 体に浸透する に溶けあう。…な ↓闇のなかでは、 と空 している →この設問は、傍線部の次の段落 込めたかどうかが大きなポイントだ。
。 (第五段落)
。
53
選 ぶ
が逆なの ×。共感覚的な体験は、むしろ活発になる のである。
て保留し、改めて本文を確認する余裕を持てれば対処 できたはずだ。 2 はラストの「共感覚的な体験も抑制させられる」
たちの身体と空間」 の説明としてOK。それと対 の身体と空間とが親密な関係にな の内容に合致しているのでこれもO 共通 雰囲気にともに参与させら る」 合致するので、これが正解となる。ただし、 素は傍線部の次の段落まで読んでの解答確認にな で、一度目は△にして保留し、他の選択肢を×にして から戻ってきて正解にしてもいい。迷った場合、少な くとも、い たんは
チェック 主観的読解に
1 の 「視覚的な距離によ
3
は傍線部の直前の
1 の選択肢(正解)に△を付け
4 を選んでいる
「明るい空間」
「私たち
「ある
3 は後半の「もっぱら という前提が逆で×。闇 4 は 「間接的」 が×。闇のなか 接」触れ合うと本文には書いてあ も見えず、 私たちと空間とは「間接 と勝手に解釈してはいけない 自分の主観で た人がこの の「身体感覚で距離がとらえられ」も本文に矛盾する 「距離」は、 「視覚」でとらえるものだからである。 5 は冒頭の「視覚のもつ距離の感覚がいっそう鋭 敏になり」が逆で×。 板野先生から 性が高い ので、大いに気をつけてほしい。また、前半
。 本文を正確に読解せず、
4 を選んでいる可能
「闇」だから何
54
第9講 評論
次の文章を読んで、後の チ (注1) ェーザレ・パヴェーゼの日記に ……という結論になる」といった記 した出来事ではなく、きわめて抽象的な 浮かんでくるようだ。日記(いちいち断るの 個人がその内面を書き記した日記)をつけること ブルジェであれば、病はここで極頂にまで達したと評 にとって、日記はただ毎日つけるだけでは十分ではない。 再読と記述の追加と 、日記を書くという行為の何か本質的な というのも、ここでは日記を一つの保存装置、とりわけ《自己》を であれ、 保存するということは、 その保存したものを将来いつか取り出 たジャムをいつかは食べるなど まったく考えもしないで、瓶に密封する 保存したことそのものを忘れてしまう場合はあるけれども――われわれの多く しパヴェーゼは、けっして忘れることなく、ときどき瓶のふたを開いてはジャムを 読みかえし、そのうえ新たな味つけまでしているのだ。つまり保存という作業の基本を だがそれにしても、保存するものがジャムであるのと自己であるのとでは、保存の姿勢がず 第9
制限時間
5 分
実施日:
j (注2) ournal intime
月
正しくは
ポ (注3) ール・
日
55
保存は、 の対象はある 殖をつづけてゆく ろ蓄財やあるいは切手 る――少なくとも最初から えず帳簿に目を通さなくてはな めたものがたった一つでもなくなれ 古代以来の日記文学の伝統のあるわが国 源があるようだ。言いかえれば、自己の内 は一方で資本主義、他方で個人主義という、と 実のものとなった。収集がただの趣味以上のもの とであって、 となるのはいつでも他の財と交換 可能な財であり(たとえ めの手段という性格を多少とも残しているのにたいして、日記に れゆえにこそ、日記においては手段の自己目的化が蓄財や収集にもま
(注)
4 ブルジョワ
2 3 ポール・ブルジェ
1 チェーザレ・パヴェーゼ
journal intime
A ここでも同じ原理が作動している
― ――――――――――
― ――――――――
― ――――――
― ―― イタリアの詩人(一九〇八~一九五〇) 。 フランス語。ここでは「内面の日記」の意味。 フランスの作家、批評家(一八五二~一九三五) 。 ここでは近代ヨーロッパの有産者。
措 お くとして、ヨーロッパにおいては、日記 はずである。ただし、財の蓄積、保存とは言っても、収
綴 つづ るということは、自己を一種の財と見なし
日 ひ 毎 ごと ふえてゆく収集品を前にしてほ 貯 た めたお金で家を購入する) 、したがってこの保存はまだ目的
(富永茂樹『都市の
ブ (注4) ルジョワ社会においてのこ
憂 ゆう 鬱 うつ 』による)
56
第9講 評論
問 傍線部A「 れるか。最も適
1 近代ヨーロッパにおいて 主義の原理が働いているとい 2 自己の内面を日記に綴る営みの 集活動の広がりにもそのような背景 3 収集はただの趣味以上のものであるが、 の原理が働いているということ。 4 資本主義と個人主義という二つ 原理が近代ヨー うにブルジョワ社会を形成したということ。 5 日記の発達の起源に財の蓄積 商業活動の原理があっ 業活動のためであるということ。
1 ~ 5 のうちから一つ
57
る。つまり、自己を一種の財と見なして蓄積するのは、 個人主義と資本主義の成立以降のことである。また、収 集がただの趣味以上のも として広く行われるとは、ブ
受験生にとってあまりなじみのないテーマだけに、読 解に手間取る可能性が高い。傍線部を含む段落の内容を すばやくつかんでいこう。 ヨーロッパの日記の起源は、商人のつける会計簿にあ
第9講
チェック なじみのないテーマだけに、 丁寧に読解しよう! 読 む 選 択 率
3%
5
正解 正解
1
4 16%
10%
1
3 14%
4 ・ 5 2
2 57%
指示語を正確に たどり、本文の 対比構造を正確 にとらえる問題。 それをきちんと 押さえずに選択 肢に挑むと、解 答がブレてしま う。
正答率
57 %
ルジョワ 力を誇示する これも、近代以 ここでのキーワード この二つの原理の成長を ヨーロッパの日記が発達した しい。 指示語の指し示すものを正確にとらえる 解 く
A[ 自己の内面を「日記」に を一種の財と見なして蓄積すること) → 近代ヨーロッパの根幹をなすとも言うべき考え方 (資本主義・個人主義)の成長 のものとなった チェック
B[ 「収集」がただの趣味以上のものとして広く行わ れるようになること → ブルジョワ社会
においてのこと
2
]
「個人主義」
綴 つづ るということ(=自己
をまってはじめて現実
と 「資本主義」
]
だ。
58
第9講 評論
ワ社会」におけるBの内容 まり構造的に相似関係になって る。
ここ (=B)でも 傍線部中の指示語「
要素ごとに○×を付ける !
10% 57% 14% 16% 3%
ここ 」が指し示すのは、
「
最終的なポ とは何かをつ ているものとは、 も言うべき考え方(資 いえる。 指示語で指し示されている内容 をきちんと押さえ、選択肢を見て
「近代ヨーロッパ
≒ B」の関係
だと
59
1 は、まずチェック2 る部分において「日記」 で×。また、Bに該当する要 限定されているので×。 2 は、チェック2[解く]で見たAに 分として 、 「自己の内面を日記に綴る営みの背景 本主義と個人主義の成長という原理が見られ るのが本文の内容と対応している のでOK。次に のBにあたる内容は問題ないが、 「そのような背景が ある」はやや大雑把な表現になっ 。ただし、全 体的に「A ≒ B」の関係は正しく表現されているので、 チェック 2 を一発で選ぶ 選 ぶ
これが正解。傍線部中の「ここ」という指示語を正確 にたどり、本文の内容を理解できていれば正解できた はずだが、テーマと内容的な難しさで選べなかった受 験生が多かったようだ。 3 は前半はOKだが、 「収集活動と趣味活動の双方」
3
に「ブルジョワ社会 う構造がおかしい。 いる。本文を正確に読もう! の基本的な精神を形成したように」 しい 。近代ヨーロッパの根幹をなすとも言う 方(資本主義・個人主義)の成長をまっては 現実のものになったのは「自己の内面を『日記』 るということ」であり、 「その二つの原理が同じよう にブルジョワ社会を形成した」わけではない。また、 チェック2[解く]で見たBの要素についてまっ く 触れられていない点でも×が付く。 5 はまず、 チェック2 [解く] で見たAの部分が 「商 4 は「資本主義と個人主義」が
業活動の原理」でまとめられているので×。またBの 部分も、収集活動ま が「商業活動のため」と結論付 けられているのが本文に反しており、決定的に×。
板野先生から
「原理」の内容が完全に
「近代ヨーロッパ
60
第 10 講 評論
次の文章を読んで、後の 一日に放送されるテレビ番組を 作局はちがっても中味は似たりよっ 文化というものの特徴である。見る、 見 と 枕 まくら 詞 ことば を用意しておいて語り出すのが現代の大衆文 ところで、相手を無視する自由にははね返りがあ のは困る」という理屈。 「言論・表現の自由」という 文化 下劣さやずうずうしさがまかり通るのは、 「お互い からで、これを振りかざせば大抵の批判は、余計なお説教とし こういうやり方はじつをいうと、弱者が強者に抵抗するとき使用す にたいして、卑小な自分の言うことなぞ大したことでないのだから目く ず自分を卑下しておく道化の振りによって、客観的に存在している権威的( 大衆文化がこの話法を鍛えてきたのは当然で、権威をもった て自己を守り、活動の余地をつくるしかなかった。 しかし、たとえば最初に述べたテレビ番組の場合には事情が相当にちがう。弱者の自己 が強者であり、 権力をもっていることが前提にあってはじめて、 一種の抵抗だとみなせた。 第 10講
制限時間
5 分
フ (注2) ォーマルな文化にたいして、下位文化(
俺 おれ のこと無視してもいいからね」
実施日:
対 (注1) 手をこきおろす。ま
subculture
)はそうやっ
月
日
61
て否定し だろう。テレ り動かすほどの力 政治権力との対抗関係 になう位置へと変化してき 弱者の抵抗表現を核にした下位 秩序どおりでないとしても、大量生 まれざるをえない。フォーマルな、権威 ク音楽とポピュラー音楽との落差にかんし 化生産とその消費のありよう しては)逆転 ア文 )秩序自体が欧米風に存在していたわけでは
(注)
1 対手 2 フォーマルな
― ―――――――――――――
― ――――――――
A マス・メディアがつくりだ (中西新太郎「文化的支配に抵抗する」による。ただし
公式の。
たいしゅ。相手。
変 へん 貌 ぼう している
。大衆文化のつくり手のもつ意
62
第 10 講 評論
問 傍線部A「 貌」するのは、 次の 1 ~ 5 のうちから一つ選べ
1 マス・メディアによってつく 社会システムの中での強者と結 2 マス・メディアによってつくられる して欧米で認められることによって、権 3 マス・メディアによってつくられる文化は、 放送をその中心に置くことによって、権威を持つ 4 マス ・ メディアによってつくられる文化は、 大量生産 そのことによって権威を持つことになる。 5 マス・メディアによってつくられる文化は、そのつくり手の意 ことがあり、それ
63
みよう。 「お互いに無視しあう自由」というニヒリズムは、弱 者(下位文化)が強者(権威をもったフォーマルな文化) に抵抗するとき使用する「戦術」である。
第 10講
現代のマス
1 1% ⊖的価値観を正確にとらえる! 読 む 選 択 率 2 1% チェック
⊖
的価値観
正解 正解
5
・メディアに対する筆者の主張をまとめて
6%
に注意だ。
1
3 39%
4 ・ 5 4
4 53%
観をとらえる力 の不足と、 「何が 問われて か」 を正確につかん でいないことが 原因だ。
間違いは③の選 択肢に集中して いる。
正答率
⊖的価値
53 %
しかし、 それらがつく 存在へと変貌 傍線部の直後に解答を求め 解 く チェック
的構造・秩序のなかに組みこまれざるをえない。 マス・メディアがつくりだす文化(=大衆文化)が権 威的な存在へと変貌した原因は、大量生産のかたちを介 したから のである。
マス・メディアがつくりだす文化 文化の多くも、文化という次元のうえで 表現を核にした下位 はとてもいえない 存在へと変 識がこの秩序どおりでないとしても、 ちを介するかぎり
へん 貌 ぼう している
している。
、大衆文化は大衆社会に固有の権威
2
。大衆文化のつくり手のもつ意
も、したがって大衆
大量生産のかた
64
第 10 講 評論
文章構造と [結果]←[理由 という倒置した因果関係に ば、解答の根拠を探すのは容易 ただし、この形の場合、理由説明
要素ごとに○×を付ける !
1% 1% 39% 53% 6%
~から」と 気をつけよう か」と問われてい 後に原因を探す視点を わずか数行の問いだが、 「 かむことは基本中の基本 なので から解答する習慣を付けよう。
65
1 は「社会システムの によって」という理由が は、問われ いる内容自体も る。 2 は「欧米で認められることによって 由がナシで×。 いない。 3 は「テレビ放送をその中心に置くことによって」 という理由が×。たしかに傍線部の前段落で「テレビ のもつ大衆的な影響力」について述べられているが、 これは、マス チェック 何が問われて 選 ぶ
を介しているからである。 本文には書かれていること だが、 「問いに対する解答にはなっていない」という、 いわゆる「ズレ」た内容を含む選択肢だけに、慎重に
レビが権威的な存在に ったのは「映像を提供してい る」からではなく、あくまで「大量生産」のかたち
・メディアの一例でしかない。また、テ
3
1 や 2 を選ぶようでは基本がなって
消去したい 問われているかをつかん けよう。 るので、これが正解。もう一つの理 てい 「大量消費」に関 ては、同段落 化生産とその消費のありようとしては)逆転 る」と述べられている でOKだ。 5 は「政治的な権力と結びつくこと」という理由 がナシで×。 「権威」 と 「権力」 の混同を誘っているひっ かけの選択肢だ 4 は、権威の原因を
板野先生から
。この選択肢を選ん
「大量生産」
だと指摘してい
66
第 11 講 評論
第 11講
次の文章を読んで、後の 音楽の場が侵すべからざる非日 を日常化させ、聴き手の聴取態度を 品の中に作者の個性を聴き取り、その個 行為は、日常生活の中に移されることによっ こうした動きは最近の新しいメディアの登場によ ディオ装置の置いてある場所にすらゆく必要がなくな CDの出現は作品の一部分をピックアップして 性によって統一された一つのまとまった全体であることをやめ かつては厳しく排除され 断片的な感覚刺激を求める聴き方が、作 うとするような「 スタイルもまたそうした聴き方に対応して変化し、今や音楽文化全体が「軽 態の変化をやや乱暴にまとめればそんなところになるであろう。だが本当にそう まず、 「作曲家神話」の形成というかなり具体的なテーマを論ずることからはじめ 家に関する数多くの「神話」を生み出してきた。そして最近の研究の中で、バッハ、モ れがこれまで信じてきた話の多くが虚構であったことが明らかにされるようになり、多くの
真 ま 面 じ 目 め 」な聴き方を駆逐する。残ったのは表層的な感覚刺激と戯れる「軽やか (本文全
繋 つな ぎ合わせて聴くような断片的な聴き方を容易にし、その結
制限時間
10 分
実施日:
月
日
67
バッハが 晩年のモーツァルト 清らかな作品を書き続けた ルトが貧乏したのはビリヤード ベートーヴェンを描いた肖像画や彫 紀後半以降に急速に普及したものである な意志力をもって一生を闘い続けた作曲家 たともいえるのである。 これらの「神話」の多くが近代的な聴取形態の確立 もに解体したのは偶然ではない。この種の「神話」は、 粋鑑賞」の精神の所産であるということができるからである この種の神話の多くがその作品を作った作曲家 人格や作曲家 きたい。聴き手は作品を聴きながら作者の人格や個性を感得し、作曲 するという行為が、まさにそのようにあるべきだと考えられてきたからで 露であ 限りにおいて、作品を純粋に鑑賞するとはそのようなことなの された行為は真の鑑賞とはいえないということ なる。 ところがここに一つのパラドックスがある。作品を純粋に鑑賞するということは、同時 に集中するということをも要求するからである。学者でも 限り、聴き手は鑑賞 際に現 タの作曲年代 ヒに移って間もな
敬 けい 虔 けん なルター
眼 め にする、あの眼光鋭い強そうな顔は
馳 は せる。それは作品を鑑賞
教 (注1) 会カンタ
強 きよう 靭 じん
68
第 11 講 評論
付けをとる そういうことを の鑑賞行為はほとん 鑑賞行為はむしろ、よけ 果作者の人格や作曲の状況は ないのである。 これは西洋の近代的な芸術作品の基 において作品はそういう現実のコンテクスト た作品に、聴き手 鑑賞行為の中で想像力によっ 曲の状況ではなく、作品をもとに想像力によってイメ トとして聴き手にもたらされる。 作曲家にかかわる「神話」 そのような 「作曲家神話」はこのような近代的な芸術作品のあり方から構造的 者の精神の所産として解釈しようとする近代的聴取態度の相関者である そういう点からすれば、 現代の聴衆のあり方はまさにそのような神話を生み やかな聴衆」として することをやめてしまうという限りで、神話は生み出されることはない。そ 意味 とは決して偶然のことではない。 だが、これは事柄の一面に過ぎない。なぜなら現代はまた作品というテクストとコンテクス 作者は実在の人間として現実の
刹 せつ 那 な 的・つまみぐい的に作品とかかわるという限りで、またそれを作曲家の人格の所
コ (注2) ンテクストの中で作品を作るが、それが
間 かん 隙 げき を縫って作品に付着してくる。一九世紀におびただしくもたら
纏 まと わせるのである。その結果、現実の作曲家や作
69
せている レコードやC メディアが普及し が明らかになってきた という、よく考えてみれば が象徴されている) 、純粋な器 これは一面ではあらゆる ンテクス いえ、ある場面では、コンテクストをも する方向にはたらく。事実、ビデオやLD がある。もし音だけ聴いていれば演奏家に関す 実のコンテクストが与えられることによって、想像 しかしながら、映像はまた別の形 新たな神話を作り出 とともに与えられることによって、映像はその作品にかかわ 異なり、映像のもつ圧倒的なインパクトと、その音楽との巧妙な ンテクストを生み出すうえで絶大な効果を発揮する。
(注)
3 LD 4 アンチテーゼ
2 コンテクスト
1 教会カンタータ
― ―――――――――――――
― ――――――――
― ――――――― ― ――――――――
声楽曲の一形式。 文脈。ここでは作品をとりまく状況や情報。 レーザーディスク。映像・音声の記録媒体の一つ。 ある主張に対立してとなえられる主張。
熊 くま のような顔をしたピアニストが繊細な音楽
(渡辺
裕 ひろし 「聴衆の『ポストモダン』?」による)
ア (注4) ンチテーゼとも
L (注3) Dなどの視覚
70
第 11 講 評論
問 本文の内容
1 筆者は、現代の聴衆 「作曲家神話」を生み出 たのだと主張している。 2 筆者は、レコードやCDといっ 日常生活の場へと移動させたと概括 している。 3 筆者は、現代が「脱神話化」の時代であると された近代の聴衆のありかたに比べると、 「神話 り高く評価している。 4 筆者は、 「純粋鑑賞」とは、 現実の作者から離れることと たとしたうえで、そのために聴き手は現実から離れた作者像を と分析している。 5 筆者は、現代の「軽やかな聴衆」が一九世紀に生成された「神話」を解 彼らを「軽やか」にした新しいメディアも、 「神話」の生成につながるコン 摘している。 6 筆者は、レコードやCDの登場は音楽鑑賞の場を日常生活の場へと移動させ、ヘッ ち歩くことさえ可能にしたとまとめたうえで、しかしながら映像メディアが現代の音楽 に大きいと予想している。
1 ~ 6 のうちから
71
作曲者の現実のコンテクスト (作曲中の感情 ・ エピソー ドなど)を知らない て新た コンテクストを纏わせること なる。そこで生
筆者は、近代の〝真面目な〟聴衆を支えてきた純粋鑑 賞の精神(作品を純粋に鑑賞せよ!という要請)が、作 曲家たちの「神話」 生み出す原因になったと指摘する。 本文全体の内容を速く正確に把握する! 読 む 選 択 率 チェック
第 11講
4%
1
※二つ選ぶ問題なので、選択率は合計200%。
12% 3
正解 正解
26
16%
16%
〝真面目な〟聴き手は、
1
5 70%
4 ・ 5 4 ・ 5
4 82%
④は本文の前半、 ⑤は後半の内容 と合致していた。 今回の内容一致 問題は、 「消去法」
の技術が問われ る問題であった。
想像力によっ
正答率
82 % 70 % ・
選択肢を読点(、 )ごとに区切り、各要素に○△×の 判断を下していく。 確実に×の付く選択肢は最初に消去。 一方、その場で判断できない微妙なものには△を付ける (どこがなぜ〝微妙〟なのかを明確にチェックせよ!) 。 そして、二度目の読みの段階で△を付けたポイントを本 文と正確に照らし合わせ、正解を絞り込んでいく(詳し くは 15ページの板野のコラム①を参照のこと) 。 チェック
まれるの 現代の〝軽や は解体していっ メディアが結合する 話」を作り出すこともあ センター評論の最終問題(問6)は、 「内容 るいは「本文の内容(特徴)や展開(論の進め方 問われるのが基本だが、 いずれにせよ が戦略の基本 内容合致問題の基本は消去法! 解 く
となる。
2
選択肢の「消去法」
72
第 11 講 評論
と、あとはひ
本文での確
要素ごとに○×を付ける !
16%
70%
82%
12%
16%
4%
73
1 は「 『不真面目』に で×。そもそも筆者は「 やかな聴衆」に対して、良い 断は下していない。 2 は「音楽が一般の大衆へとひろがる たと歓迎している」がナシで×。 な価値判断は示されていない。 3 は「 『軽やかな聴衆』のありかたをより高く評価 している」が×。 チェック 速くて正確な 選 ぶ
ているわけではない 4 は、チェック1[読む]でまとめた、 「神話」が 生まれる原因が過不足なく説明され 。これが一 つ目の正解。
3
1 2 同様、どちらかを高く評価し
⊕/悪い
1 同様、そのよう
⊖という価値判
5 は本文の後半と合致 ディア」とは「映像メデ これが二つ目の正解。 6 は「CD ・ ヘッドホンステレオ( 像メディア(の影響) 」という構造 文にはそのような比較関係では書かれて 「それ以上に大きい」という部分を×とする
板野先生から
「映
>
74
第 12 講 評論
第 12講
次の文章を読んで、後の 近代西欧の作曲家たちは、各時 例えば、音楽とは抽象的な音の組み と考えた時代もあった。しかし、音楽が 楽作品というものは完結性のある客体的な存 特に注目すべきことは、このような作品概念が、 という点である。 よく知られているように、音楽を「書き記す」という伝統 前の音楽は、基本的には口頭伝承に依存したものであったわけ めて保つことを可能にしたのである。そして、ルネサンス期に、そ 理的に正確に示し得るように改められてゆくにつれて、かつての口頭伝 雑な音楽が可能 なってくる――口頭伝承依存期の に組み合わされるよう 、複雑な ない限り伝達し得ないというばかりではなく、その作曲そ ものも、 「書くこと」 の長大な小説や論文を執筆する文筆家の創作過程になぞらえてみればわかりやすいかも 自分 作品を完成してからそれを機械的に文字として書きつけてゆくわけではなく、 書きな
(本文全
対 (注4) 位法的音楽が、芸術音楽の主体となってゆくのである。こうした複雑な音楽は、
単 (注2) 旋律の聖歌に代わって、個々に独立した動きをもついくつもの
制限時間
10 分
記 (注1) 譜法の発明に端を発する。それ以
推 すい 敲 こう を重ねることによって、
実施日:
月
声 (注3) 部が同時
一 いつ 篇 ぺん
日
75
徐々に自 程は、 「書く てはまる。すなわ 存するようになったの ひとつのまとまりのある音 作品を実現することは不可能で 音楽に広く行き渡っている作品概念 さて、よく言われるように、紙に記され 存在論的な視点から考えれば、この指摘は 譜という形においてでしかない。作曲家は、自 奏曲の場合ならまだしも、合奏曲であれば、複数の 者によって演奏されて、音楽としての実体を得る。言い むしろ、その音楽作品の「 を実現する。したがって、ある作品は、様々な演奏家によって色 れも同じひとつの「テクスト」に基づいてなされたものであるが故に 定さ る――べートーヴェンが作曲した「運命」交響曲は、 ヴェンという作曲家の「運命」交響曲という作品なのである。 今ここで述べてきたような、音楽の筆記的特性とでも呼び得る性質は、今世紀の前 はなく、一層推し進められていった。作曲技法における筆記性が強まるだけでなく、同 ど残されていないような「テクスト」が書かれる傾向が促進され、音楽における「テクスト
テ (注5) クスト」なのであって、演奏者は、その「テクスト」を解釈
直 じか に音響として人々に提示することはできないの
フ (注6) ルトヴェングラーが演奏しても
ブ (注7) ーレーズが演奏しても、べートー
76
第 12 講 評論
ていったの 音楽家たちはそ へと向かう動きが、 で行われる音響を媒介と によって作られるその音楽 「作曲者」というものもない。 まり、 「個人」の名をもっていない これは、西洋近代の芸術音楽に保たれ続 え込まれてきた口述的な音楽の復権を意味し 口述性の復権が最も顕著に意識された時代だった 高まったというだけでなく、前衛音楽家をも含めた多 という現象も見られるようになった。非西欧の諸民族の伝 楽のような筆記性をそなえていない。ある程度までその理由に から「原始的」なものでしかない、と見なされていた。しかし、そ 非筆記的本性の音楽に 正当な価値を認め、それらを、西洋音楽と 異 になったのである。今や、アジア・アフリカ等の非西欧の諸 は、原始的 伝統をぬけ出すに当たっての 格好の導き手として意識され始めたのだった。 即興演奏という手段によって、そしてまた、非西欧の民族的伝統音楽をある程度ま ちは、筆記性の否定(否定とまではいかないにしても、少なくともその「希薄化」 )を みは、ある意味で、それまでの芸術音楽と他のポピュラー的音楽(ジャズ、ロック、いわゆ
真 しん 摯 し な興味を示し始める、
77
の間にあ めて希薄なも その作曲者の名に にはあまり依存してい いくつかは、それまでの芸 こうした、筆記性の衰退という 問題を問 直しつつある。多く 作 洗礼を受けた後で、作曲家たちは、西洋 ような位置に至った、と言えるだろう。そ くこと」の新たな形での復権が成されるとき、 ういう期待をもって活動している作曲家は、 「ジャ うことになるのだ。
(注)
7 ブーレーズ
3 声部 5 「テクスト」 6 フルトヴェングラー 4 対位法
1 記譜法 2 単旋律の聖歌
――
― ―――――――――――――
― ―― ―― ― ―――――――
― ――――――――――――
― ――――――――
― ――――――――
― ―――――
音楽を視覚的に書き表す方法。 教会などで歌われたメロディーだけの(ハーモニーのない)宗教歌。 ソプラノ・アルト・テノール・バスあるいは高音部・低音部などのパート。 独立した複数の旋律を組み合わせた作曲技法。 ここでは「書かれたもの」の意味。 ドイツの指揮者(一八八六~一九五四) 。 フランスの作曲家、指揮者(一九二五~) 。
証 あか しである。そして実際
(近藤譲「 『書くこと』の衰退」 〈一九八五〉による)
78
第 12 講 評論
問 本文の内容について
1 音楽を楽譜に書き記すとい まとまりをもった客体的な存在 2 文筆家が書きながら考え、推敲を重 を推進することで、演奏者に解釈の自由 3 楽譜として書き記された「テクスト」はだれ 自由がほとんど残されず、そのため実際の演奏は 4 口述的な音楽の復権は、西洋近代の芸術音楽に保た 西欧の諸民族の音楽家たちが主体的に反発したことがきっ 5 一九六〇年代の前衛音楽は、演奏者に確かな解釈を与える「テ 奏へと回帰し、非筆記的な音楽へと衰退していった。 6 前衛音楽家たちによる即興演奏の流行は、非西欧の伝統音楽の再発見と を希薄化し、やがて芸術音楽と大衆 とを近づけることとなった。
1 ~ 6 のうちから二つ選べ
79
本文全体を、大きく三つ(A・B・C)に分けて読解 していこう。 それと同時に、センター現代文で非常に重要な の主張 選 択 率 本文を大きく三つに分けてとらえる! 読 む
⊕ いくことが大切だ。この問題集では、これまで一貫し て ⊕ ⇔ ⊖の価値観を判定しながら読解してきたが、 セン チェック
第 12講
と その反対の内容
※二つ選ぶ問題なので、選択率は合計200%。
正解 正解
1
6 77%
60%
1
4 ・ 5 1 ・ 6
20%
2
23%
⊖ を対比構造的に読み切って
3
12%
5
8%
4
「テクスト」の意 味内容と「 (急進 的な)前衛音楽 家たち」の方向 性をきちんと整 理すれば、二つ とも正解で た はずだ。
正答率
60 % 77 % ・
筆者
を読解する
ター本番
[A]第一~三段落 〈近代西欧音楽の筆記的 近代西欧では、記譜法の発展 音楽が可能となった。作曲そのも ことで、 作曲家が提示するのは楽譜、つまり「テクス あり、演奏されてこそ音楽としての実体を得る。 家はこれを様々に解釈するが、ひとつの「テクスト」 に基づく限り、特定の音楽作品として同定される。 [B]第四~六段落 〈急進的な前衛音楽家の試み〉 音楽の筆記的特性は一九五〇年代の前衛音楽によっ て推進され、
ある音楽作品 い「テクスト」の優位絶対視の状況が飽和状態にまで 達する。ところがそ 反動として一九六〇年代後期に
よう心がけて 細部から全体構造まで制御された、完
を実現する。
演奏者に解釈の自由がほとんど残されな
⊕
⇔
⊖を意識し
80
第 12 講 評論
は、 非筆記的な即 衛音楽家たちの間 い即興演奏は「無名性 こうした筆記的伝統の否定 を意味していた。それに伴い、 伝統音楽を正当に評価するという になった。 こうして前衛音楽家たちは筆記性の否定を けだが、 その試みは、 それまでの ラー的音楽との間にあった溝を埋めるような結果を んだ。 [C]第七段落 〈筆記性の新たな復権〉 筆記性の衰退を目の当たりにした作曲家たちは、再 び 「書くこと」の可能性
の復権 を単に受け入れるのでもなく、拒絶するのでもなく、 近代の超克を目指すものである。
へと向かう動
を探り始めた。それは、伝統
芸術音楽と他のポピュ
非西欧の民族的
口述的な音楽
第 11講に引き続き、センター評 式の問題。基本的には「内容合 内容(特徴)や展開(論の進め方 設問形式では選択肢の「消去法」が攻 で、あらためてその解法をまとめておこう 各選択肢を読点「、 」ごとに区切り、各要素に○△ の判断を下していく。確実に×の付く選択肢 一度目 消去。一方、その場で判断できない微妙なものには△を 付ける。 そして、二度目の読みの段階で△を付けたポイントを 本文と正確に照らし合わせ、正解を絞り込んでいく チェック 内容合致問題の基 解 く
本文での確認作業は、ある程度の目星 つける洞察力 と、あとはひたすらスピードと根気の勝負で る。
2
。
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要素ごとに○×を付ける !
60% 20% 23% 8% 12% 77%
60%の①が正解できたかどう かがポイントだ!
今回は解答⑥は正答率 易しかったが、もうひとつの
77%と
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第 12 講 評論
1 は、楽譜に「書き記す」 雑になる」 とともに 「まとま ということで本文前半の内容と合 目の正解。 2 は「急進的な前衛音楽家たち」が「筆記 を推進する」という説明が逆で×。 彼らは即 非西欧の民族的伝統音楽に注目し、むしろ筆記性 定を試みたのである チェック 消去法を駆使して 選 ぶ
3 は「 (テクストは)基本的に『解釈』の自由がほ とんど残されず」が×。 が絶対視されるようになった「一九五〇年代の前衛音 楽」に限ったことであり、普遍的な事実ではない
たがって「実際の演奏は…同じようなものになる」も、 断定的過ぎるので×。
3
。
それは、 「テクスト」の優位
。し
再発見」の連動は第5段落に、そして「芸術音楽と大 衆音楽(ポピュラー的音楽)とを近づける」という内 容は第6段落に、それぞれ書かれている。したがって これが二つ目の正解。
4 は「非西欧の諸民族の音 発した」が×。 「口述的な音 は一九六〇年代後期の「急進的な ある。 5 の前半は問題ないが、ラストの「 (非筆 楽へと)衰退していった 家たちの試みは、筆記的伝統を乗り越えようとす たなチャレンジであって、 「衰退」というネガティブ なものではない。むしろ、近年衰退している は「筆 記性」のほうである 、最終段落で述べられている 6 の「即興演奏の流行」と「非西欧の伝統音楽の
板野先生からの学
⊖」が×。急進的な前衛音楽
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小 説
センター現代文
一問一答問題集
必修編
第 13講
次の文章は、夏目漱石 爪 つめ に火を 点 とも すってえのは、あの事だね」 彼が実家に帰ってから後、こんな評が時 汁 け をよそってやるのを何の気もなくながめて 「それじゃ何ぼ何でも下女がかわいそうだ」 彼の実家のものは苦笑した。 お常はまた 飯 お は ち 櫃 やお 菜 かず のはいっている戸棚に、いつでも錠をおろした。たまに せて食わせた。その時は彼女も健三も同じものを食った。そ れを当然のように思っていた健三は、実家へ引き取られてから、 しかし健三に対する夫婦は金の点に掛けてむしろ不思議 らい寛大 の着物を買うために、わざわ ざ (注2) 越 えち 後 ご 屋 や まで引っぱって行ったりした。その越後屋の店へ腰を掛けて、柄を 夕暮れの時間がせまったので、おおぜ の小僧が広い間口 雨戸を 両側から 大きな声を揚げて泣き出した事もあった。 彼の望むおもちゃは無論彼の自由になった。その中に 烏 え 帽 ぼ 子 し 姿に鈴を振らせたり足を動かさせたりして喜んだ。彼は新しい 制限時 5 分 島田は 吝 りん 嗇 しょく な男であった。 妻 さい のお常は島田よりもなお吝嗇で 「 番 ばん 叟 そう の影を映して、
写 (注3) し絵の道具も交じっていた。彼はよく紙を継ぎ合わせた幕の上に
独 こ 楽 ま を買ってもらって、時代を着ける
黄 (注1) 八丈の羽織を着せたり、
実施日:
膳 ぜん を出さなかった。そ
択 よ り分けている間に、
蕎 そ 麦 ば を取り寄
月
、 (注4) 三 さん
味 お 噌 つ
縮 ちり 緬 めん
日
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第 13 講 小説
ために、そ たびに彼は石垣の間 袂 たもと へ入れた。…… 要するに彼はこの吝嗇な島田 A 夫婦の心の奥には健三に対する 彼らが長火鉢の前で差し向かいにす 「お前のおとっさんはだれだい」 しかし
彼は独楽の 健三は島田 方を向いて彼を指さした。 「じゃお前のおっかさんは」 健三はまた 常 顔を見て彼女を指さした。 これで自分たちの要求を一応満足させると、今度は同じよ 「じゃお前の本当のおとっさんとおっかさんは」 健三はいやいやながら同じ答え 繰り返すよりほかに仕方がなかっ 合わせて笑った。 ある時はこんな光景がほとんど毎日のように三人の間に起こった。ある時は 常はしつこかった。 「お前 どこで生まれたの」 こう聞かれるたびに健三は、彼の記憶のうちに見える赤い門―― らなかった。お常はいつこの質問を掛けても、健三が差しつかえなく同じ返事のできるよう
失 な くなるのが心配
河 か 岸 し ぎわの 泥 ど 溝 ぶ の中に
蟹 かに の穴を棒で突ッつい
浸 つ けた。とこ
く (注5) 扱 あつか い 所 じょ の土間を抜けて
高 たか 藪 やぶ でおおわれた小さな赤い門の
薪 まき 積み場の
柵 さく と柵との間
家 うち をあげて答えなければな
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事は無論 「健坊、お前 彼は苦しめられる たくなった。 「お前だれが一番好きだい 健三は彼女の意を迎えるために ていた。それをただ年歯の行かない 度を忌み 悪 にく んだのである。
(注)
5 扱い所
4 三番叟
3 写し絵
2 越後屋
1 黄八丈
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黄色の地に 東京日本橋にあった大呉服店。 光線によって、ガラスに描いた絵などを幕に映し出すもの。幻 歌舞伎の舞の役。ここでは、それを模した人形のおもちゃ。 今の区役所または町役場などに当たるもの。
おっかさん?」
鳶 とび ・茶などの
縞 しま を織り出した絹織物。八丈島が本産地。
頓 とん 着 じゃく しなかっ
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第 13 講 小説
問 傍線部A「夫婦の心 か。その説明として最も
1 健三は、夫婦にとってよりも実 しまうのではないかと気がかりだっ 2 健三は、夫婦から大切 育てられたが、 られてしまうのではないかといつも心配 3 健三は、子供ながらに自分が養子でしかないこと して無言の圧迫を与えてしまっていたのである。 4 健三は、神経質で頭のよい少年だったので、夫婦が くら されているのではないかと、気がかりだったのである。 5 健三は、夫婦にとってよそからもらい受けた大切な一人っ子であっ どうか確信が得られず、いつも心配だったのである。
1 ~ 5 のうちから一つ選べ。
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小説の場合、まず場面・状況や人物関係をつかみ、次 にストーリー展開とともに、主たる登場人物の心情を把 握しながら読解していくことが大切だ 島田夫婦の心理を丁寧に押さえる! 読 む 選 択 率 チェック
験の場合は「読解速度」が要求されるので、日ごろから 速読速解を心がけてほしい。今回の内容を「あらすじ」 にしてみよう。
第 13講
1 2 1% 1%
7% 3 4 3%
正解 正解
1
4 ・ 5 5
5 88%
。特にセンター試
正答率は 高いが、傍線部 直後の「セリフ」 から意味をくみ 取るという、か なりテクニカル な問題であった。
正答率
88%と
88 %
いかにそれを読み落とさないかも勝負の一つだ。速くて 正確な読みができる力を付け いってほしい。
島田夫婦 からもらい受 議なくらい寛大 には、健三に対する は、本当の親子ではない 夫婦は何度も「お前のおとっ お前のおっかさんは」といった確 健三はいやいやながら返事を続けるが み嫌うようになっていく。夫婦は全力を を自分たちの専有物にしようとつとめた。健 の束縛と、それより恐ろしい心の束縛により、ぼ した不満足を胸に抱きはじめた。 こうした「あらすじ」的なとらえ方を日ごろから行う ことで、内容把握が的確になる。小説はどうしても主観 的に解いてしまうので、客観的な読解をするためにも、 内容を自分の頭の中で「あらすじ化」する習慣をつける ようにしよう。 「センター小説の解答の根拠は必ず文中にある」
ので、
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