新・ゴロゴ漢文問題集共通テスト編 オンライン限定コンテンツ版
オンライン限定コンテンツ版
はじめに 共通テストでも求められるのは返り点と句法の〈基本〉だ 二〇二一年度からセンター試験に代わって共通テストが始まりましたが、漢文に関しては、返り点と句 法の〈基本〉をベースとした読解力が問われるという根本は、何も変わりませんでした。ですので、皆さ んは、まずは返り点と句法を完全にマスターし、続いてセンターの過去問で実戦を積むという王道で学習 を進めていけば、何の心配もありません。 共通テストの新傾向問題にも対応 一方で、共通テストでは、二つのテクストを読ませるという、従来のセンター試 験にはない出題が見られ ました。また、共通テストに先立って行われた試行調査では、図表や現代日本語による説明文も用いられ るなど、今後の出題が十分に予想されます。ですから、こうした新傾向の問題への対策も不可欠です。 そこで、本書『新・ゴロゴ漢文問題集 共通テスト編』は、センターの過去問のなかでも学習効果の高
い問題と、共通テスト・試行調査の問題を組み合わせ、受験生にとって必修の8問を用意しました。 皆さんには、これらの問題に取り組み、返り点と句法を完全マスターすることで、共通テスト漢文で確 実に9割以上得点を取れるようになることをお約束します。 それでは、頑張ってやっていきましょう。
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「新・ゴロゴ漢文問題集」 シリーズ構成 漢文を極め、 「合格」の頂を目指そう!
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基礎・必修編 学習しやすい一問一答演習で、効 率的に学習。 厳選の30題で基礎知識を固めよう。
スタート
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15 「本書の利用法」 1 本書の問題は、共通テスト・試行調査・センター試験の過去 問から厳選しています。 演習を通じて、返り点と句法の完全マスターを図るとともに、問題の解き方や選択肢の 正誤の判定の方法を身につけてください。 2 まずは大問1問につき 分以内を目安に解いてください。力をつけるためには、自分 で解くことが肝心です。その後解説を読めば、自分に足りなかったものが吸収できま す。 3 解説は、問題を解くための着眼点を詳しく説明しています。基本事項の理解が不十分 であると感じたら、『新・ゴロゴ漢文』を活用して定着を図ってください。
5 最後に、書き下し文と現代語訳を活用して復習しましょう。重要語句は必ず覚えてく ださい。目標は、本文を自力で「音読」できるようになることで 詰まったり、意味 が分からなくなったりしたら、書き下し文と現代語訳を見返しながら、最終的にはスラ スラ言えるところを目指してください。
4 問題の一部は、傍線部や選択肢のどこに注目して正誤を判定するかをビジュアル解説 しています。共通テストでは選択肢の分析が不可欠です。自分でも問題に線引きや書き 込みをしてください。
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す。詳しくは「ゴロゴネット」ホームページ「オン ラインフリー学習参考書について」をご覧ください。
(※2)ホームページから利用のご報告が必要です。
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 漢和辞典を活用して、漢字力・語彙力を強化しよう 傍線部中にある句法や語に注目し て、選択肢の正誤を判定しよう 対句に着目して文を解釈しよう 文と文の関係を見極めながら、論の展開を捉 えよう 選択肢の正誤を判定する精度を上 げ、スピードアップを図ろう 〈意味〉よりも〈形〉を優先しよう 人物関係に注意しながら本文を読 もう 難易度の高い文章こそ〈形〉を重視しよう 押韻を踏まえて漢詩の空欄補充問 題を解こう 問題の連動性を意識して、解答の手がかりを 得よう 主語に着目して、選択肢を判別しよう 反語を見抜いて的確に解釈しよう 訓読みと熟語の二方面から、語句問題を攻略 しよう 共通する内容を意識しながら、複数のテクス トを読もう 返読文字に強くなって、確実に返り点を付け よう 相違点を意識しながら、複数テクストを読 もう 『新・ゴロゴ漢文問題集 共通テスト編』学習テーマ一 覧
第 8講
第 7講
第 6講
第 5講
第 4講
第 3講
第 2講
第 1講
目次 第 1 講 蔡絛『鉄囲山叢談』
第 8 講 劉基郁離子』
第 7 講 『欧陽文忠公集』
第 6 講 周煇『清波雑志』
第 4 講 李贄『焚書』 第 5 講 姚元之『竹葉亭雑記』 『韓非子』
第 3 講 趙翼『簷曝雑記』
第 2 講 皮日休『原謗』
86 100
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45
32
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第 講 1
1 漢和辞典を活用して、漢 2 傍線部中にある句法や語に注目して、 選択肢の正誤を判定しよう 蔡絛『鉄囲山叢談』 漢文の攻略には、句法のマスターとともに、漢 字力・語彙力の強化が欠かせない。とりわけ、 共通テスト漢文では語句問題でダイレクトに問われる。文中に出てきた分か らない漢字は漢和辞 典を引き、音訓や意味とともに、語源・熟語などにもあたってほしい。 共通テスト漢文において解き方の基本となるのが、「傍線部中にある句法や語に注目する」とい う解法である。これは、解釈問題でも返り点の付 け方や書き下し文を問う問題でも変わらない。 一つの句・一つの語に焦点をあてて、選択肢を絞り込む解法をマスターしよう。 学習テーマ
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第 1 講 蔡絛『鉄囲山叢談』
4 る。これと同じ意味で用いられている熟語であるから、 「誓約」が正解と判定できる。 その他の選択肢の熟語は、 「要約」と 「簡約」は「まとめる」 、 「節約」と 「倹約」は「つまし くする」にあたる。 重複しているものが正解とはなりえないので、実戦的にはこうした選択肢を消去し て絞り込んでいくことも大切だ 。 (道程)などの意味があるが、 が動詞で用いられていること(送り仮名に「ヒテ」 とあ (目的語)が「先王の法言 であって、「柔道」 や「剣道」の 「道」とは 「道具」はもともと、仏道 5 2 3 5行前に、漁師に魚の値段
問1 語句問題 センター漢文では定番であった、漢字の意味を熟語で問う問題である。共通テストの試行調査でも出 題されており(第8講で扱う) 、今後も出題の可能性は高いので、語彙力の強化に努めたい。 表した文字で、「まとめる」 (要約)、 「つましくす (約束)などの意味がある。本文では、波線部の と答えている箇所があるので、「取り決める」の意であると考えられ
1 ア 「約」は、糸を引きしめて結び、目印とすることを る」(節約) 、「取り決める」 (直)を問うたところ、「三十銭也」 イ 「道」は、首(頭)を前に向けて進んでく様子を表した文字で、「歩くみち」(道路)から派生して、 「行うべきみち」(道徳・柔道) 、「みちのり」 「言う・述べる」 という意味も あることをぜひ覚えておきたい。本文では、「道」 る)、客語 4 」であることから、「言う」 の意であると考えられる。 そして、現代語でこの意味で用いられている熟語といえば、 「報道」くらいであるので、これも覚 えておこう。 「報道」は、報じる・言うと同じ意味を重ねた熟語 意味が異なる。他の選択肢も見ておくと、 「人道」・ 「道理」・ 「道具」は「行うべきみち」 、 「道程」は「みちのり」である。 4 で用いる法具 4 を意味する言葉であった。 2 1 3 5
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4 【学習テーマ】で述べたように、 漢文で語彙力を強化するには、漢和辞典を引くこと である。漢和辞 典には、読み(音訓)と意味だけでなく、語源や熟語なども詳しく説明されていて、大いに役に立つ。 漢和辞典をお友達にして、漢字に強くなってほしい。 正解 ア= イ= 問2 解釈問題 まず、使役の「使」 (~をして~しむ)が用いられていることを踏まえて傍線部を直訳すると、 「『左右』 に数のとおり銭で『之』に与えさせた」となる。 「左右」の意味するものと「之」 の指すものが解答のポイ ント となるが、ここからは文脈で考えよう。 は、現代文と変わらない。この
2 魚の値段は三十銭だ(三十銭也)と漁師が言ってきたので、魯公は、その金額どおり(如数)渡した、 ということであるから銭を渡した相手である「之」はもちろん漁師である。そて、魯公は自分で直 接渡したのではなく、「左右」の者を使って渡したと考えられる (だから使役が用いられている)。 以上の内容を踏まえて選択肢を見ると、まず、「左右」を 「行き交う漁師たち」「傍らの漁師」 として解 釈している ・ ・ は誤り。 ・ のように「傍らの従者」ととるべきである。次に、 「如数」の解釈 として、 「魚の数と大小とを考えあわせて」は文脈に合わない。「三十銭也」と漁師に言われたので、 「求められた金額どおり」払ったということである。よって、 が正解と判定できる。 選択肢を要素に分けて、要素ごとに正誤を判定していくという解き方 あたりは、共通テスト現代文の解法を、漢文にも活かしてほしい。 1 2 3 4 5 5 4 4
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第 1 講 蔡絛『鉄囲山叢談』
」と送り仮名をする。
4 問3 訓み方を問う問題 まず、「也」に注目しよう。 「也」には、断定の助動詞として「なり」と、疑問・反語の終助詞として 「や」 「か」の、三つの訓み方がある 。また、反語の場合には「~ン(や) 選択肢を見ると、反語(約せんや)ととる ・ 、疑問(約するか)ととる 、断定(約するなり)と とる ・ の三つに分かれるが、問2で見たとおり、漁師は「三十銭也」と言っていたのであるから、 反語や疑問ととるのは無理がある。よって、この時点で ・ に絞られる。 残る両者を比較すると、 「爾に魚を貨るに」、 「爾の魚を貨らしむるも」という点が異なる。傍 線部でいう「爾」は、漁師が魯公に言った言葉であるから、 「魯公」を指す。漁師が魯公に魚を売ったの であるから、 のように訓むのが自然である。 は、「爾の魚」では魯公の魚ということになってし まうし、文脈的に使役(~しむる)ととるのも無理がある。よって、 が正解と判定できる。 前問で、要素に分けて選択肢の正誤判定するとい話をしたが、そのときにポイントとなるのは句 法や重要語である。 本問では、「也」に着目することで選択肢を二つに絞り込むことができた 。この後 も、一つの句法や語に着目して解く方法は何度も出てくるので、しかりとマスターしてほしい。 正解 1 2 4 3 5 3 5 3 5 3 5 3 3 正解
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1 ~ 問4 心情説明問題 傍線部Cの直前に描かれている、魯公と漁師のやりとりをしっかりと読み取ろう。漁師の発言の中に 「多其一」とあるが、ここで言う「一」 とは、発言に続いて「還一銭」とあるので、 「一銭」のことと考えら れる。漁師は、魚を三十銭で売ると取り決めた(約三十銭)が、一銭多くもらってしまったので、返し に来たと言った。魯公は笑って受け取りを断ろうと した(笑而却之)が、漁師は聞かずに結局返して 去っていった(還一銭、而後去)。そのような、漁師のやや頑固だが誠実な姿勢を、魯公は微笑ましく 選択肢をチェック! 断定 or疑問 or反語 漁師は「三十銭也」と約束していたの だから、反語( ・ ) ・疑問( )と いうことはない。 使役はない 1 2 3 4 5 1 2 4 問3 傍線部B「始 貨 二 爾 魚 一 約 二 三 十 銭 一 也 。」 のうちから一つ選べ。 始め爾 なんぢ に魚を貨 う るも三十銭に約せんや。 始め爾の魚を貨るに三十銭を約せんや。 始め爾に魚を貨るに三十銭を約するなり。 始め爾に魚を貨らしむるに三十銭を約するか 始め爾の魚を貨らしむるも三十銭に約するなり。 の読み方として最も適当なものを、次の
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第 1 講 蔡絛『鉄囲山叢談』
5 思ったのである。 以上の内容を踏まえて選択肢を見ると、「一銭多くもらったから届けにきた」「要らないと断っても、 律儀に余分なお金を返していった」と事実関係を的確に押さえ、「好感が持てた」とする が正解と判 定できる。 は「一尾足りなかった」 、 は「一尾多く渡してしまった」 、 は「一銭足りなかった」が、いずれ も漁師の発言内容に合致しない。 は「値をつけるのが一銭高すぎた」が部分的な解釈としては可能で あるが、「得したと思った」が魯公の気持ちからズレる。それではなぜこの話を筆者 (魯公の子)が記し たのか、理由が分からなくなってしまう。 改めて選択肢を見ると、「気持ち」 を問う問題であるが、その「気持ち」を引き起こす 〈事実〉に関する 記述で正誤が判定できる。これは共通テスト小説と全く同じだ。 さまざまな解釈が可能な〈心情〉より も、本文にはっきりと書かれている〈事実〉を踏まえて考えてほしい 。 正解 問5 理由説明問題 まず、傍線部に疑問詞の「豈」があるが、送り仮名に「ン がない。この場合は反語ではないので注意 しよう。 否定語の「非」 「不」と組み合わせた形は詠嘆である。「あに~にあらずや (ならずや)」 と訓み、 「まことに~ではないか」という意を表わす 。 これを踏まえて傍線部を直訳すると、「これはまことに隠者のすることではないか」 となる。そこで、 1 2 3 4 5
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」が誰のどのような行為を指すのかを本文で追っていこう。問4で見たとおり、漁師 聞かずに返した。そ ということである。
1 以上の内容を踏まえて選択肢を見ると、 「金銭に関して潔癖で」がいま見た内容に合致する。また、 「利欲とは無縁の高尚な人物」も「隠者」 が正解と判定できる。その他の 選択肢は、「これ」が指す内容を反映していない。 共通テスト現代文では、「傍線部中、あるいは傍線部の直前に指示語がある場合、まずは指示語問題 として解く」というのが鉄則中の鉄則だが、漢文でも同じだ 。指示語が出てきたらそれが指し示す内容 を確認しながら読み進めてほしい。 正解 問6 筆者の主張を問う問題 1 指示語の「これ(此) が一銭多くもらってしまったからと返しに来て、魯公はいらないと言っているのに、 のやり取りを見て、当時十四歳であった私(吾時十四矣) も「隠者」のようだと思った、 の説明として適当で、ズバリ
1 本文は、具体的な事例(新開湖での出来事)を書き記し、それを踏まえて最後に筆者の見解を述べ という、漢文の説話文ではよくある構成をとっている。文末に「故に書す」とあることから、最終段落 はこの出来事を書き記した理由が述べれていると分かる。「未必能尽附新開湖漁人也」の解釈がポイ ントだ。 「未必〜」は、副詞の「必」 が否定語の「未」の下に来ているので、部分否定 (必ずしも〜ない)である 。 「能」は、ここでは「よく」と副詞で訓んでいるが、 「未」と合わせて不可能(〜できない)の意味となる。
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第 1 講 蔡絛『鉄囲山叢談』
3 問6 筆者は、この新開湖での出来事に触れながら、どのようなことを言おうとしているのか。最 も適当なものを、次の ~ のうちから一つ選べ。
2 は、士君子だ貴人だとのたまう輩が多いが、 ひとたび自らの利害に関わると、わずかなものでも比較してあれやこれやと言い立てる。態度を変えず に貫き通す(所守)という点では、断っても聞かずに一銭を返した新開湖の漁師たちに、必ずしも追い 付く(肩を並べる)ことができない」 となる。 よって、「わずかでも利害がからむと節操を守ることのできない者がおり」「新開湖の漁師に及ばな い」とある がズバリ正解と判定できる。 ・ は、「当節の高官の中にも、わずかな利害にとらわれず」 に「節操を守ることのできる者」がい るとしてる点が誤り。また、 ・ は、「新開湖の漁師にまさる」 「劣りはしない」と、 「未必~」の一 節の意味を取り違えている は「心を通じ合えない」が誤り。心が通じ合うかどうかについて、本文 3 5 4 「附」は、「追い付く」 の意と捉えれば良いだろう。 以上を踏まえて解釈すると、「当節の高位高官たち(今人)
1 に言及はない。 「未必能尽附新開湖漁人也」の返り点の付け方・訓み・解釈を、しっかりと復習しておこう。 正解 選択肢をチェック! 1 5
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学習アドバイス
2 彼らは新開湖の漁師に劣りはしない、ということ。 部分否定(必ずしも〜ない) 未 必 能 不可能(〜できない) 初講ということで難易度の高くない問題を用意したが、選択肢の正誤を判定するポイントとして、 句法のほか、人物関係・指示語など、ひととおりのもの出てきた。共通テスト漢文で確実に高得 点を取るため、よく復習して、選択肢の絞り方を磨いてほしい。
1 は新開湖の漁師のような隠者と心を通じ合える、ということ。 当節の高官の中には、わずかでも利害がからむと節操を守ることの できない者がおり、彼 らは新開湖の漁師に及ばない、ということ。 当節の高官の中にも、わずかな利害にとらわれず節操を守ることの できる者がいて、彼ら は新開湖の漁師にまさる、ということ。 当節の高官中には、わずかな利害にさとく 了見の狭い者が多いので、彼らは新開湖の漁 師のような隠者と心を通じ合えない、ということ。 当節の高官の中にも、わずかな利害にとらわれず昔の 聖王の言葉を 守っている者がおり、 3 4 5 当節の高官の中にも、わずかな利害にとらわれず節操を守ることの できる者がいて、彼ら
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第 1 講 蔡絛『鉄囲山叢談』
1 第 講 解答欄
問6
問5
問4
問3
4 問2 8
問1
ア 4
2
1
5
3
イ
9
8
8
7
2
5×2=
10
41 点
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して 已 すで に 及 およ べば、 則 すなは ち 曰 い はく、「 始 はじ め 爾 なんぢ に魚 うを を貨 う るに三 さん 十 じふ 銭 せん を約 やく するなり。今 いま 乃 すなは
として遥 はる かに槳 しやう 艇 てい の甚 はなは だ急 きふ に、飛 と びて大 たい 謂 い ふ、「 此 こ れ 必 かなら ず 大 たい 魚 ぎよ を 得 え たるか。 将 まさ に 喜 よろこ びて 復 ま た 来 き たらんとするか」と。 頃 しばら く 舟 しう を趁 お ふを見 み る。吾 われ と公 こう と咸 みな 愕 がく 然 ぜん として
帰 かへ す」と。 魯 ろ 公 こう 笑 わら ひて 之 こ れを 却 しりぞ く。 再 さい 三 さん
過 よぎ り、漁 ぎよ 艇 てい の往 わう 還 くわん 上 じやう 下 げ するを睹 み る。魯 ろ 公 こう
数 すう のごと銭 ぜに を以 もつ て之 こ れに畀 あた へしむ。 去 さ り 来 き たりて 未 いま だ 幾 いくば くならざるに、 忽 こつ
小 せう 大 だい 又 ま た 斉 ひと しからず。 其 そ の 直 あたひ を 問 と へば、
ち其 そ の一 いつ 多 おほ し。是 これ を用 も つて来 き たりて爾 なんぢ に
吾 われ に 命 めい じて 一 いつ 艇 てい を 呼 よ び 得 え て 来 き たらしめ、
る。吾 われ 公 こう に侍 じ して舟 しう 行 かう し、一 いち 日 じつ 新 しん 開 かい 湖 こ に
戯 たはむ れに 魚 うを を 售 か ふこと 二 に 十 じふ 鬣 れふ ばかりなり。
曰 い はく、「三 さん 十 じふ 銭 せん なり」と。吾 われ 左 さ 右 いう をして
書き下し文 現代語訳
大 たい 観 くわん の 末 すゑ 、 魯 ろ 公 こう 宮 きゆう 祠 し を 責 つと めて 浙 せつ 右 いう に 帰 かへ
漁船が去ってからいくばくもしないうちに、突然遠くに急 いで(私たちの乗る)大舟を追ってくる姿を見た。私も魯公 も驚いて言った、「きっと魚を得たにちがいない。それで 喜んでもう一度売りに来ようとしているのだ」と。しばらく して(私たちの舟に)追いつくと、漁師が言うには、 「さきほ
宋の大観年間の末年のこと、父の魯公は宮祠の任を務め終 えて隠居所の浙右に帰った。私は魯公のお供をして舟で行き、 ある日、新開湖を過ぎたあたりで、小さな漁船が行き来する のを見た。魯公は私に命じて一艘 そう の船を呼び寄せさせ、おふ ざけで二十尾ほど魚を買った。魚の大きさふぞろいだった。 値段を問うたところ、(漁師が)答えるには 「三十銭です」と。 私は傍らの従者に命じ求められた金額どおお金を渡させ た。
魯公は笑ってそれを断った。(しかし)何度断っも漁師は 返すと言って聞かなかった。結局、一銭を返して去っていっ
ど三十銭という取り決めで魚を売りました。ですが一銭多く お支払いになっていたようです。それで返しに来ました」と。
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第 1 講 蔡絛『鉄囲山叢談』
と訓む。本文でも、「来」 「白」には「言う」 なるも可 き かず。竟 つひ に一 いつ 銭 せん を還 かへ し、而 しか る後 のち 去 さ る。魯 ろ 公 こう 喜 よろこ ぶ。吾 われ 時 とき に十 じふ 四 し なり。魯 ろ 公 こう に 白 まう す、「 此 こ れ 豈 あ に 隠 いん 者 じや に 非 あら ずや」と。
「最終的に」の意。 公 こう 曰 い はく、「 江 かう 湖 こ の 間 かん 、 人 ひと の 市 し 廛 てん に 近 ちか づ かざる者 もの 類 おほむ ね此 か くのごとし」と。
「独白」などというように、 吾 われ 毎 つね に 以 も つて 之 こ れを 思 おも ふ。 今 いま の 人 ひと の 朱 しゆ 紫 し を被 き るは、先 せん 王 わう の法 はふ 言 げん を道 い ひて、士 し 君 くん 子 し と号 がう し、又 ま た騶 すう 哄 こう を従 したが へ、堂 だう 上 じやう に坐 ざ し て、貴 き 人 じん と曰 い ふもの多 おほ きも、一 ひと たび利 り 害 がい
重要語句 命 文脈使役で「~にめいじて~(せ)しむ」 「結局」 の「畢 ひっ 竟 きょう 」も、同様の意で用いられる(第3講問1で後述) 。 白 動詞でまうす」と訓む。 「告白」 如此 慣用表現で「かくのごとし」と訓む。 「このように」の意。 守 まも る 所 ところ 、 未 いま だ 必 かなら ずしも 能 よ く 尽 ことごと くは 新 しん 開 かい 湖 こ の漁 ぎよ 人 じん に附 ふ せざるなり。故 ゆゑ に書 しよ す。 がされている。 竟 副詞として「つひに」と訓み、 に触 ふ れ秋 しゆ 毫 がう を校 くら ぶるに及 およ べば、則 すなは ち其 そ の □ □ □ □
の意がある。
と重ねた熟語
に「タラ 「終わる」の意の「畢」
いけれども、ひとたび自らの利害にかかわるや、わずかなも のまでも比べたてるに及んでは、その守るところは、必ずし も全員が新開湖の漁師に肩を並べることはできないである。 それゆえ書き記た。
私は常日ごろこう思っている。当節の朱紫を着る高位高官 どもは、聖王の遺した言葉を口にして、士君子と呼びならわ し、さきばらいを従えて、堂上に坐して、貴人と言う者は多
ないですか」と。魯公が言うには 浙江から新開湖のあた りで生活していて、商店のある街に近づこうとしない者た いていこういうものだ」と。
た。魯公は(そのさまを)とても喜んだ。私はその時十四歳 だった。魯公に申し上げるに、「あの人は隠者だったでは
シメ 」と送り仮名
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第 講 2
3 対句に着目して文を解釈 4 文と文の関係を見極めながら、論の展開 皮日休『原謗』 漢文では、意味的・構造的に対応する二つの句を並べる対句の技法が用いら れる。センター漢 文以来、対句に着目すると容易に選択肢が絞れる問題は多い。傍線部を見る 際には、前後に対の 関係にある句を探そう。 どんな文章にも主題があり、筆者はそれを、情理を尽くして説明しようとする。漢文に限らず、 古文や英語でも「訳す」ことにばかり意識が向いてしまいがちだが、理路を たどって本文全体の 趣旨をつかみたい。共通テスト初年度では論の展開を踏まえた問題が出題された。 学習テーマ
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第 2 講 皮日休『原謗』
「厚生」の
1 問 語句問題 ア 「厚於生」は、「厚生」の語源である漢文の表現だ。 意は、「人々の生活を健康で豊かなものにすること」である。よって、「生活をまもり豊かにするもの で」とある が正解と判定できる。その他の選択肢は、 「満ちあふれた」、 「深くかかわる」、 「利用できる」、 「促進してくれる」が、「厚」 の字義に合わない。「厚くする」から 「豊かにする」の意 が生じているのである。 イ 「倹」は、「倹約」と言うように、 「無駄遣いしないこと」の意である。傍線部は「不」 が付いているので、 「無駄遣いする」ということになる。よって、「つつましい生活をしないで」 とある が正解と判定でき る。自分が「倹」ではなく、貧しくったのに、やはり天を怨む(貧及、亦怨之) という、傍線部に続く 一節の文脈にも合致する。その他の選択肢は、アと同じく「倹」の字義に合わない。 共通テスト小説で出題される語句問題では、「辞書的な意味を優先する」ことが鉄則であるが、漢文 の語句問題でも同じだ 。選択肢の内容がどんなに文脈に合っていても、漢字そのものの意味(字義)か 1 2 5 3 「厚生労働省」 「福利厚生」などと言うが、
3 らズレていたら正解にはならない。文脈を見る前に、漢字の意味を押さえることが肝心である。 ただし、漢字の意味が分からなかったら答えようがない。ふだんから漢和辞典を引いて、語源や熟語 に接してほしい。 正解 ア= イ= 3
3
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3 問2 理由説明問題 傍線部の「民事天、其不仁至矣」が、 行目にある逆接の「然而」を挟んで、本文冒頭の「天之利下民、 其仁至矣」と対になっている ことを押さえよう。 は極まりないと言える 、民は暑さや寒さに対して天を怨み、「不善」 「不倹」といった自分のせいで 招いた禍いや貧窮についても天を怨む。だから、その不仁はきわまりない(其不仁至矣)ということで ある。よって、「民は何かにつけて天を非難するから」とある が正解と判定できる。 は「天の意向を無視する」が本文にナシ。 も「民が浪費するばかり」が本文にナシ。 は後半の 「うらむ」は正しいが、その理由とて挙げている前半の「天が暑さ寒さなどの試練を与えると」が誤り。 は、「禍がもたらされる」のは民の行いによるものであって、 「天対する民の奉仕が十分でな」いか らではない。 本問は、 対句に着目して解く問題 の一種と言える。傍線部の文言が対句の片方であり、意味的・構造 1 ⇔ ⇔ 民事天、 其不仁至矣 「天」による「利下民」の具体例として、続く一文で美味しいもの・便利なもの・生活を豊かにするも (其仁至矣)。しかし(然而) 2 3 4 5 天之利下民、其仁至矣 のが挙げられている。このように何でも民に恵み与えているのだから、その仁
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第 2 講 皮日休『原謗』
1 5 1 2 3 4 5 的に対応するもう片方の句をヒントにして解く問題は、センター漢文から頻出であった。『新・ゴロゴ 漢文問題集 基礎・必修編』でも取り上げているので、解法をしっかりと身につけてほしい。 正解 選択肢をチェック! 問2 傍線部A「民 事 レ 天、其 不 仁 至 矣」とあるが、筆者はどのような理由 でそう言っている のか。最も適当なものを、次の ~ のうちから一つ選べ。 限りない恵みを受けながら、民は何かにつけて天を非難するから。 民が便利なものばかりを追い求め、天の意向を無視するから。 天が与える恵みを、民が浪費するばかりで活用しようとしないから。 天が暑さ寒さなどの試練与えると、民はすぐそれをうらむから。 天に対するの奉仕が十分でなく、 禍 わざわい がもたらされるから。 「怨之」 「天之利下民、其仁至矣」 1
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4 問3 句法に関する問題 B 「尚」「況」の語が用いられていることから、 抑揚形であると分かる。抑揚とは、あることを強調す るために、別のことを先に挙げておく表現法のことだ。強調したいことよりも些細なことを挙げ、 「×× だって~なのだから」いったん下げて(抑) から、「○○だったらなおさらだ」 と上げて(揚)強調する。 「A尚B、況於C乎」という形をとり、「AすらなほB、いはんやCにおてをや」と訓む 。Cが強調 したいことで、「AでさえBなのだから、ましてCはおさらである」の意である。傍線部を解釈する と、「民は天のことさえこのように (如此)怨むのだから、まして君主ならばなおさらである」となる。 と合わせて「 (け)んや」と訓んでいるので、 反語であると分かる。疑問と反語は文末の訓みかたで見分けよう。 。「可~(~べけんや) 」はよく出てくる形なので、覚えおこう。 の意である。傍線部では反語と「不」が重なっているので肯定とな
C 「可」の送り仮名に「ケン」とあり、文末の終助詞「歟」 未然形+んや→反語 終止形+ や →疑問 連体形+ か →疑問 送り仮名に「ン」とあれば反語である 「~できるだろうか(いやできない)」 り、慎まないでいられようか (いや慎まずにはいられない)」と解釈できる。 共通テスト漢文で句法の名称がダイレクトに問われる可能性は低いが、当然、解釈などの問題におい
2
24
第 2 講 皮日休『原謗』
4 て句法の理解が求められる。『新・ゴロゴ漢文』を活用して句法の完全マスターを図ってほしい。 正解 B= C= 問4 訓読に関する問題 傍線部中に二つある「之」の訓みがポイントだ。 「之」には、動詞として「ゆく」、指示代名詞として 「これ」、格助詞として 「の」という三つの訓みがある 。 まず、一つめの「之」は、 「これ」と訓む ・ と、「の」 と訓む ・ ・ に分かれるが、「これ」 だ とすると、傍線部の前に指示するもがない。ここは格助詞で「者」にかかる (後「の」~者) と取るべき である。よって、 ・ ・ が残る。次に、二つめの「之」も、 「尭・舜」と「行」という名詞どうしを 結んでいるので、格助詞と捉えられる。よって、 が消去される。 残る と を見ると、「為」 を は「ためにす(ためにせざる) 」と訓み、 は「なす(なさざる) 」と 1 2 3 4 5 3 4 5 4 3 5 3 5
2 訓む点が異なるが、ここは文脈から判断しよう尭・舜のような名君でさえ民から謗りを受ける。なら ば、それに及ばい君主はひどい仕打ちを受けて一族が滅ぼされても不思議ではない(折而族之、不為 甚矣)ということであるから、 では合わない。よって、 が正解と判定できる。 いま、「之」の訓みで選択肢を絞ってから文脈を参照したが、返り点や訓読が問われている問題では、 文脈に頼らない解き方 を徹底してほしい。文脈から判断しようとすると読み間違えたときに修正が利 かなくなる。まずは傍線部中にあ句法や語を手がりに考え 正解 3 5 5
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1 を、次の ~ のうちから一つ選べ。 後に これ天下に王となり、堯・舜の行くが為にせざる者有らば、 後に これ天下に王となり、堯・舜にこの行ひをさしめざる者有らば、 後の 天下に王たりて、堯・舜の行ひの為にせざる者有らば、 後の 天下に王たりて、堯・舜にこれくことを為さざる者有らば、 後の 天下に王たりて、堯・舜の行ひを為さざる者有らば、 問5 論の展開に関する問題 段落分け問題は、論の展開に沿って確実に切れるところと切れないところを見極め、そこから選択肢 を絞っていくことが肝心だ 。 まず、ⓐは、問2で見たように、逆接の「然而」を挟んで天の 「仁」と民の「不仁」 がペアになっている から、切れることはない。このあたりは、現代文同様の論理的な読みが求められる。これに対して、ⓑ どちらも格助詞「の」 文脈的に「為」 を 「ためにす」とは 解釈できない 5 1 2 3 4 5 選択肢をチェック! 問4 傍線部D「後 之 王 二 天 下 一 、有 下 不 レ 為 二 堯・舜 之 行 一 者 上 」この読み方として最も適当なもの
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第 2 講 皮日休『原謗』
も窮ま 。 第2段落(ⓓまで) ・・・・・ 天でさえ怨まれるのだから、君主は言行を慎まなければならない。 第3段落(ⓕまで) ・・・・・ 堯・舜もその慈孝を知らない民に怨まれた。 最終段落 ・・・・・・・・・・・・・・ 堯・舜に劣る君主であれば、民が滅ぼしたとしても行き過ぎだとは言えない。 共通テスト初年度の第1問(評論)では、段落に沿って論の展開を整理する問題が出題された。漢文 でも、ただ読むのではなく、筆者の理路をたどって読むことを心がけよう。 正解 問6 内容合致問題 前問で見たとおり論の展開を押さえれば、 本文における筆者の主張が、君主としてあるべき態度を述 べた第2段落にある ことは明らかだろう。第1段落で天、第3段落で堯・舜さえ怨まれることを述べて、 天下に皇帝たる、一国に君主たる者が言行を慎まないわけにはいかない(=有帝天下、君一国者、可不
4 4 は、抑揚形を用いて天から君(君主)へと論を展開しているところなので、切れる。同様に、君から堯・ 舜へと話題が転換されいるⓓも切れる。また、ⓕも「嗚呼」と最後に筆者が感想を述べている部分な ので切れる。 以上の通り、ⓑ・ⓓ・ⓕで切れるので、正解は と判定できる。 解答を踏まえて論の展開を整理してみよう。 第1段落(ⓑまで) ・・・・・ 限りない恵みを与える天の仁は窮まりないが、何かにつけて天を怨む 民の不仁
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2 慎歟)ことを強調したのである。 選択肢を見ると、 が「君主は自身の言行に常に心を配り」とこの趣旨を踏まえており、ズバリ正解 と判定できる。 は「君主は慎み深い感謝の気持ちを民に教えるべきだ」、 は「君主は慎重に厳しく 取り締まらなければならない」が誤り。ともに「慎む」 の意味を取り違えている。 は天や堯・舜の「寛 大さを手本とすべきだ」とする記述本文にナシ。 は「民の中傷のもとになる欠点は、天や堯・舜の ように偉大な存在にもあった」が誤り。天や堯・舜は欠点がないのに民から怨まれたのである。 正解 3 4 5 2
学習アドバイス
1 共通テスト国語全体として、甲乙つけがたい微妙な選択肢が二つ残ったときに、いかにその違いを 見極めて正誤を判定するかが、高得点を取るうえでカギを握る。問4のようなポイントの絞り方を、 ぜひ参考にしてほしい。
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第 2 講 皮日休『原謗』
2 第 講 解答欄
問6
問5
問4
B 4 問3 × = C 2 4 2 8
1 問2 8
問1
ア 3
2
4
5
イ
9
9
8
3 4 2 8 × =
37 点
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らずして貧 ひん 及 およ ぶも亦 ま た之 これ を恨 うら む。是 こ れ民 たみ の
堯 げう ・舜 しゆん は大 たい 聖 せい なるも、民 たみ 且 か つ之 これ を謗 そし る。後 のち
も、 乃 すなは ち 父 ちち に 在 あ らざるを 知 し らず。 嗚 あ 呼 あ 、
も、而 しか も子 こ に在 あ らず、舜 しゆん の孝 かう は万 ばん 世 せい に及 およ ぶ
り、一 いつ 国 こく に君 きみ たる者 もの 有 あ らば、慎 つつし まざるべけ
其 そ の怨 ゑん 訾 し 恨 こん 讟 とく 、天 てん に蓰 し 倍 ばい せり。天 てん 下 か に帝 てい た
天 てん に事 つか ふるや、其 そ の不 ふ 仁 じん 至 いた れり。天 てん すら尚 な
らずして 禍 わざはひ 及 およ ぶも 亦 ま た 之 これ を 恨 うら み、 己 おのれ 倹 けん な
之 これ を恨 うら み、祁 き 寒 かん にも亦 ま た之 これ を恨 うら み、己 おのれ 善 ぜん な
して民 たみ の由 よ らざる者 もの 、生 せい に厚 あつ くして民 たみ の求 もと
不 ふ 孝 かう の謗 そし り有 あ り。殊 こと に堯 げう の慈 じ は天 てん 下 か を被 おほ ふ
んや。故 ゆゑ に堯 げう にも不 ふ 慈 じ の毀 そし り有 あ り、舜 しゆん にも
ほ此 かく のごとし、況 いは んや君 きみ に於 おい てをや。是 こ れ
めざる者 もの 有 あ らず。然 し 而 か れども暑 しよ 雨 う にも亦 ま た
だ味 あぢ に美 び にして民 たみ の知 し らざる者 もの 、用 よう に便 べん に
書き下し文 現代語訳
天 てん の 下 か 民 みん を 利 り するや、 其 そ の 仁 じん 至 いた れり。 未 いま
は自分の父親に対してだけものではないことを、民はこ とさらに知らない。ああ、堯・舜は大聖人であるが、民は
ある。堯の慈愛は天下をおおう、それは自分の子供に対 してだけのもではなく、舜の孝心は万世に及ぶが、それ
や、慎まないわけにはいかな)。それゆえ堯も慈愛が ないというそしりがあり、舜にも孝心がないとのそしりが
その恨みそしりは天に数倍する。天下に皇帝たる、一国に 君主たる者であれば、どうして慎まずにいられようか(い
うに民が天に仕えるにおいて、その不仁なること窮まりな い。天ですら恨まれるのだから、君子はなおさらである。
の、生活をまもり豊かにするもので民が求めないものは い。しかし、炎暑に降る雨も天を恨み、厳しい寒さにも 天を恨み、自分の悪行のせいで禍いが及んでも天を恨み、 自分の無駄遣いのせいで貧窮に及んで む。こよ
天が民を利するにおいて、その仁は窮まりない。美味な るもので民が知らないもの、便利なもので民が用いないも
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第 2 講 皮日休『原謗』
重要語句 - 「五帝本紀」に描かれる、聖天子とされる伝説上の皇帝。 嗚呼 慣用表現で「ああ」と訓む。感嘆詞で、物事に感じて出す声のこと。 の天 てん 下 か に王 わう たりて堯 げう ・舜 しゆん の行 おこな ひを為 な さざる 者 もの 有 あ らば、則 すなは ち民 たみ は其 そ の吭 のど を扼 おさ へ、其 そ の首 かうべ を 捽 つか み、 辱 はづかし めて 之 これ を 逐 お ひ、 折 くじ きて 之 これ を 族 ぞく するも、甚 はなは だしと為 な さず。 □ □ □ 然而 慣用表現で「しかれども」と訓む。逆接で 「しかし」の意。 堯・舜 『史記』
彼らさえもそしる。その後の世に天下に王となり、堯・舜 の行いをなさない者であれば、民はその喉をおさえ、首を つかみ、辱めて追放し、ひどい仕打ちをして一族を滅ぼし たとしてもそれを行き過ぎだとは思わない。
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第 講 3
を優先しよう 趙翼『簷曝雑記』
18ページ るに〈形〉である と言える。目に見えない〈意味〉は読み間違えるが、目に見える〈形〉は絶対に間違えない。〈形〉 の重視は速くかつ正確に解くうえで絶対なので、徹底してほしい。 学習テーマ 5 選択肢の正誤を判定する 共通テスト国語は制限時間との勝負だ。 分のうち、現代文(評論・小説)に 分は必要であ るから、漢文は 分で乗り切りたい。そのためには、選択肢の判別で迷っている余裕はない。 第 1講・第2講でも解説したように、ポイントを決めて選択肢の正誤を見極めよう。 80 選択肢を判別するポイントは、句法であったり主語であったりするが、要す 45 15 6 〈意味〉よりも 〈形〉
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第 3 講 趙翼『簷曝雑記』
1 イ 「四体」とは、「両手・両足」あるいはそれらがすべてそろった「身体」 本である)。よって 「手足」が正解。傍線部は、この騾馬は賢いので、岡や坂を上り下りするときも 轡をとって私が命じる必要がないが(不待攬以轡・問3⑴で後述)、それは自分の手足が動けと言わな くとも思うとおりに動くようである、ということである。 ちなみに、アの「竟」 は「音」と 「儿(かがんだ人)」 を合わせた会意文字で、「楽曲の終わり」 が原義であ る。 漢和辞典をまめに引き、こうした小さな発見を積み重ねることが、 漢字力・語彙力の強化につながる 。 正解 ア= イ= 問2 訓みの問題 ⒜ 「則」 「即」 「乃」などと並んで、 「輒」も「すなはち」 と訓む。それぞれ意味が異なるので、整理しておこ う。 5 1
「終え
5 「日行百余里」と の対応関係を考えると、時間の単位である「月」と捉えるべきだろう。つまり、一日に百里ほど進み、 一月を終えても疲れない、ということである。よって、 「ひと月が過ぎる」が最も適当と判定できる。 の意(両手・両足で合わせて四 問1 語句問題 の「畢」と重ねて「畢竟」 ア 「竟」は、「(を) 傍線部では、月を竟ふ」 フ」と送り仮名がされていることから推測されるとおり、「終 る」の意である。そして、終点にたどり着くということから、副詞では「つひに」 で「結局」の意を表わす。 と言ったときの「月」が何を意味するが問題だが、直前の
(をふ)」と同じく と訓む。また、同じ意
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4 を表した文字で、車輪といつも くっついて動いていることから、「いつも・~するたびに」の意で用いられる。本では「毎(ごと に)」と呼応して、数里行くたびに手綱を押さえて歩みをとどめるということである。よって正解は 。 その他の字は、「則」 は仮定形(~ればすなはち)で用いられる。 「即」は、熟語で「即決」 「即金」などと いうように、「すぐに」の意。 「乃」はもともと、耳たぶのように曲がりくねった様子を表した字で、そ こから、竹のようには割り切れず、間を置く気持ちが込められて、「そこで・やむなく」などの意で用 いられる。 ・輒=いつも・〜するたびに 「輒」は、車輪の両わきに取りつける、耳たぶのような形のもたれ木 ・則=〜すると(仮定形「〜れば則ち」 ) ・即=すぐに・そのまま ・乃=そこで・やむなく 話をいったんおさえて別の見方を示すという意味で、接続詞として用いられることがあり、その場合の 訓みは「そもそも」である。本文では、疑問形の二つの文をつなぐ形で 「抑」が置かれており、 「~だろう か。あるいは~だろう」という意味である。よって正解は 。 いま述べたことは漢和辞典で説明されており、たんに訓みと意味を覚える以上に漢字に対する理解が
2 ⒝ 「抑」は、手で人を上から押さえつけるさまを表した文字で、動詞ではもちろん「おさえる」であるが、
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第 3 講 趙翼『簷曝雑記』
4 正解 ⒜= ⒝= 「攬るに轡を以てす」と訓む。 これと「不~」を組み合わせれば、書き下し文は「攬るに轡を以てするを待たざる(こと)」となる。 よって正解は 。 のように訓むならば、語順は「以轡攬」である。また、 の訓みでは文意が通じ ない。 ⑵ まず、「独」に注目しよう。限定形で 「ひとり〜のみ」と訓み、「〜だけ」 の意であ。よって、書き下 し文に「のみ」とない ・ ・ は誤り。 次に、 「不忍」は、下に用言(動詞) がきて「 〜 するにしのびず」と訓む。現代語でも「 〜 するに忍びな い」と言うが、 「~することに耐えられない・~できない」の意である 。 のように「忍ばずして棄つ」 と も訓めるが、それではこの騾馬だけを手放したということになり、文意に合 わない。優秀で心も通い 合っていたこの騾馬だけは手放すのに忍びなかった、というこである。よって が正解と判定できる。 返り点の付け方と書き下し文の組み合わせを問う問題では、〈意味〉よりも 〈形〉の方が重要だ 。一つ の句法・一つの語に着目て、そ〈形〉に沿ったものを選ぶようにしてほしい。 2 1 「待」に返り、さらに「不」に返るという形であるから、そのようになってない ・ は誤り。 次に、「攬以轡」は、 「攬」が動詞で「以轡」がその手段を表わしており、 3 4 2 5 2 3 4 1 5 深まる。 問3 返り点の付け方と書き下し文を問う問題 何はともあれ漢和辞典とお友達になろう 。 ⑴ まず、「不待~」は 「~(する)をまたず」と訓み、 「~するまでもない」の意である。用言(動詞)から
35
「賢い」の意である。傍線部は、 は、副詞の場合は から返って訓んでいるので、
は、ヒトを含む動物の分類を「霊長類」と言うように、 「~できる」の意。最後に、 「与」は、ここでは名詞の「人心」 「霊」の意味を取り違えると正解で
問4 解釈問題 まず、「霊」 霊者」で「生まれつきの性質(性) 格助詞「と」の働きをする返読文字である。 以上を踏まえて傍線部の前から解釈すると、「 き賢いものは人の心と通じ合える」となる。よって、「生まれつきの賢さがある」 「相労苦」とう関係に (相)つけ合っている様子が、お互いにいたわっている(労苦)
3 問5 内容説明問題 傍線部は、「若」を用いた比況形 なっている。直訳すると、「首をお互い
「性
として賢いものは」という意味になる。次に、「能」 (騾馬は言葉を話すことはできないけれども)生まれつ 「人の気持ちをさとる
4 正解 ⑴= ⑵= ことができる」とある が正解と判定できる。 その他の選択肢は、前半の「霊」の解釈が適当でない 。 また、 ・ は後半の「相通」の解釈も無理がある。 本問は解釈問題であるが、「霊」 の意味で選ぶことができる(逆に、 きない)。繰り返しになるが、漢和辞典とお友達になってほしい。 (AはBのごとし)をとっており、「相就」≒ 1 5 「よく」と訓み、
正解
3
5
36
第 3 講 趙翼『簷曝雑記』
かということがポイントだ。
1 (余)が騾馬から下り、草を 敷いて座ると」というのであるから、相手は「わたし」であると考えられる。 以上の内容を踏まえて選択肢を見よう。まず、 ・ はそもそも相手が出てこないので誤り。また、 は「仲間と」が誤り。「わたし」 を相手としているのは と の二つである。両者を比較すると、 は「首をのばす 「就」の意(つける) からズレる。また、騾馬の方から一方的に「ねぎらを求める かのよう」であったというのでは、 「相 4 労苦」とならない。これに対し、 は「わたしの苦労を思いやる かのよう」 「わたしに首をすりよせる」と解釈に無理がない。よって、正解は 。日頃の努力の積み重ねが全てである。漢字力の強化を図ってほしい。 3 2 5 5 2 2 ようだ」となる。そこで、騾馬が首をつけ合っていた相手は誰(何) 傍線部の直前を見ると、 「則」を用いて仮定条件が示されている 。「わたし
4 と判定できる。 「労」に「いたわる」の意味があことを知らないと、難しかったかもしれない。その意味で、 この問 題も漢字力で決まると言える 正解 2
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1 選択肢をチェック! 問5 傍線部B「以 レ 頸 相 就、若 二 相 労 苦 者 一 」とはラバのどのような様子を述べたものか。その 説明として最も適当なものを、次の ~ のうちから一つ選べ。 疲れた体をいやそうとするかのように、ラバが首をおろして草を食べる様子。 わたしの苦労を思いやるかのように、ラバがわたしに首をすりよせる様子。 という意味だ。死んだ理由についての筆 「耶」には「か」 と振 余とラバの関係
1 2 3 4 5 問6 内容説明問題 傍線部は「騾馬は番禺の張令に贈って一晩(一夕)で死んだ」 者の見解は、傍線部の後で述べられている。疑問詞の「豈」が出てくるが、終助詞の
38 5 互いになぐさめ合うかのように、ラバが仲間と首をすりつけあう様子。 疲れきった姿を見せるかのよに、ラバが地面首をこ る様子。 ねぎらいを求めるかのように、ラバがわたし向けて首をのばす様子。 「余」が出てこないので× 一方的では「相」 にならない 「就(つける) 」に合わない
第 3 講 趙翼『簷曝雑記』
1 ではないか」ということ。二つめ(抑其性 〜 自斃耶)は、「貞烈な性格のため、主人を代えることを受け 入れられくて自ら死んだのではないか」ということである。 これを踏まえて選択肢を見ると、 は、前半の「前世からの借りがあったため」は良いが、後半の 「純粋な情愛から」が誤り。 は、「ラバは生まれつき一人の主人にしか仕えられない」とする記述が本 文にナシ。 は、「悲嘆して死んでしまった」が誤り。 は、「前世からの因縁によるのでもなく」 「自 然ななりゆきにすぎなかった」が誤り。残る は、「わたしへの忠誠心の強さのために新しい主人に仕 えることができず、すんで死を選んだのかもしない」が二つめの推測に合致しており正解と判定 できる。 「豈」が出てくると条件反射で反語と判断してしまいがちだが、センター漢文では疑問や詠嘆(第1講 参照)の場合も多かった 。文末が「~んやであるかどうか、送り仮名に「ン」 があるかどうかを、必ず 確認してほしい。 正解 2 3 4 5 5 り仮名がされており、「~んや」とは訓んでいないので、反語ではない。 ここでは、疑問形を二つなら べて、「〜だろうか。あるいは (抑) 〜だろうか」と、騾馬が死んだ理由を推測している と解釈できる。 一つめ(豈此騾〜宿逋耶)は、
「前世で自分に借りがあって、現世で騾馬とって返そうとしているの
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1 選択肢をチェック! 問6 傍線部C「甫 一 夕 死 矣」とあるが、 筆者はラバの死をどのように受けとめているか。その 説明として最も適当なものを、次の ~ のうちから一つ選べ。 ラバが長年忠実に仕えてくれたのは、わたしに前世からの借りがあったためだとこれま で 思っていたが、急死のしらせを聞いてはじめて それが純粋な情愛からであったと気づき、生 前のラバに思いをはせている。 番禺の張令に譲り渡したラバがすぐに死んでしまっと聞いて、 ラバは生まれつき一人の 主人にしか仕えられないということが本当だとわかり 、どんなことがあっても手ばなすべきで はなかったと悔やんでる。 四千里の船旅に連れて行けないために譲り渡したラバが、新しい主人のもとで急死した と 聞いて、 ラバは前世からの借りをわたしに返すすべがなくなったと悲嘆して死んでしまった のではないかと、哀れに思っている。 いくら急だったとはいえ、ラバの死は定められた寿命がつきたのであり 前世からの因縁 による もなく 、またわたしへの忠誠の情によるのでもない、 自然ななりゆきにすぎなかっ 傍線部に続く 2つの疑問文で述べられている 5 1 2 3 4
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第 3 講 趙翼『簷曝雑記』
学習アドバイス
2つ目の疑問文 (其性貞 本講は漢字力が問われる問題が多かったが、一方で、問3は語順から正誤が判定できたし、問5は 「わたし」と「ラバ」の関係から選択肢を絞れた。速く、かつ正確に解くには、〈意味〉 よりも〈形〉 を優先させることが肝心だ。〈意味〉 に振り回されないようにしたい。 の内容に合致
5 たのだと自らをなぐさめている。 苦楽をともにしてきたラバが番禺の張令のもとに送られるとすぐに死んでしまったと聞 い て、 わたしへの忠誠心の強さのために新しい主人に仕えることができず、すすんで死を選 ん だのかもしれない感じ入っている。 烈、
41
3 第 講 解答欄
問6
問5
問4
⑴ 4 問3 × = ⑵ 5 6 2 12
⒜ 問2 × = 4 ⒝ 2 4 2 8
問1
ア 5
5
2
3
イ
8
7
7
1 4 2 8 × =
42 点
42
第 3 講 趙翼『簷曝雑記』
日 ひ に百 ひやく 余 よ 里 り を行 ゆ き、月 つき を竟 を ふと雖 いへど も疲 つか れず。 性 せい 極 きは めて霊 れい 、岡 かう 坂 はん を上 じやう 下 げ し、左 ひだり するに宜 よろ し く右 みぎ するに宜 よろ しく、攬 と るに轡 たづな を以 もつ てするを 待 ま たざること、真 まこと に四 し 体 たい の言 い はずして喩 さと る がごときなり。峻 しゆん 嶺 れい を上 のぼ る時 とき 、数 すう 里 り 毎 ごと に輒 すなは
甚 はなは だ痩 や せたり。芻 すう 豆 とう を加 くは へて之 これ を飼 か ふと雖 いへど
する者 もの のごとし。
りて 草 くさ を 藉 し きて 坐 ざ せば、 則 すなは ち 騾 ら 旁 かたはら に 侍 じ 立 りつ して、頸 くび を以 もつ て相 あ ひ就 つ くること、相 あ ひ労 らう 苦 く
ち勒 ろく 住 ぢゆう し、其 そ の稍 やや 喘 あへ ぐを聴 き き、余 よ 或 ある いは下 お
も 肥 こ えざるなり。 然 しか れども 力 ちから は 甚 はなは だ 堅 けん 勁 けい 、
軍 ぐん し、一 いち 騾 ら を得 え たり。色 いろ は純 じゆん 黒 こく 、高 たか さ五 ご 尺 せき 、
者 もの は能 よ く人 じん 心 しん と相 あ ひ通 つう ず。余 よ 滇 てん に在 あ りて従 じゆう
尽 ことごと く 以 もつ て 同 どう 人 じん に 贈 おく るに、 独 ひと り 此 こ の 騾 ら のみ
書き下し文 現代語訳
時 とき に 騾 ら 馬 ば 三 さん 十 じふ 余 よ 有 あ り、 粤 ゑつ に 帰 かへ るの 時 とき 、
騾 ら 馬 ば は 言 い ふ 能 あた はず、 然 しか れども 性 せい の 霊 れい なる
その時騾馬は三十頭ほどいたが、粤に帰る時に知人に 贈った。しかし、この騾馬だけは手放すのに忍びかっ た。従えて鎮安に至ったところで新鮮でおいしい飼料で
に手綱を押さえて歩みをどめ、騾馬が少し喘いでいる のが聞かれるので、私は下馬し草を敷いて座ると、騾 馬もかたわらに立ち、首をすり寄せくる様子、私を ねぎらっているかのようであった。
て、一月しても疲れなかった。生まれつきとても賢く 岡や坂を上り下りするきは左に右にと体をうまく動か し、轡をとるまでもないこは、手足が言わなくても思 う通りに動くようであった。峻嶺を上時は、数里ごと
騾馬は物を言うことはできないが、本性の賢さは人の 心と通じることができるほどである。私が滇の地で従軍 していた時に一頭の騾馬を得た。色は黒く背丈は五尺、 とても痩せていた。ほし草と豆を増やして飼育したが、 肥えなかった。けれども力は強く、一日に百里ほど行っ
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□ 番 ばん 禺 ぐう の張 ちやう 令 れい に送 おく るに、甫 はじ めて一 いつ 夕 せき にして死 し す。 毎 返読文字として「~ごとに」と訓む。 豈 あ に此 こ の騾 ら 宿 しゆく 世 せ 余 よ に負 お ふ所 ところ 有 あ りて、之 これ をして 宿 しゆく 逋 ほ を 償 つぐな はしむるか。 抑 そもそも 其 そ の 性 せい 貞 てい 烈 れつ にして、 主 しゆ を易 か ふるを肯 がへん ぜずして自 みづか ら斃 たふ るるか。
水 みづ を上 のぼ ること四 し 千 せん 里 り 、載 の せ往 ゆ く能 あた はず。遂 つひ に
たるに、 亦 ま た 随 したが へ 往 ゆ く。 後 のち に 余 よ 黔 けん に 赴 おもむ くに、
香 かう 秣 まつ もて、稍 やや 其 そ の労 らう に酬 むく ゆ。調 うつ りて広 くわう 州 しう に守 しゆ
棄 す つるに忍 しの びず。随 したが へて鎮 ちん 安 あん に至 いた れば、青 せい 芻 すう
重要語句
の張令にこの騾馬を贈ったところ、わず一晩で死ん しまった。この騾馬は前世で私に借りがあって、現世で 騾馬になてそれを償わせたのだろうか。あるいはもと から性格が貞烈で、主人を代えることを受け入れられな くて自死んだであろうか。
その労に報いた。広州の長官に転任した時もまた従えて 行った。後黔に赴いた時には、行程が四千里あり、 騾馬を船に載せていくことができなかった。そこで番禺
44
第 講 4
第 4 講 李贄『焚書』
7 人物関係に注意しながら本 8 難易度の高い文章こそ〈形〉 を重視しよ 李贄『焚書』 小説や古文と同じく、漢文でも登場人物を (マル)で囲み、主語が省略されているときは補 いながら、読み進めよう。特に漢文の場合、相手との関係(目上か目下か)に わることあるので、同一人物かどうかに注意したい。 本講の文章は、理詰めで書かれているものの、さまざまな関係を整理しなが ら読み進める必要 があり、骨が折れたかと思う。そういうときこそ、〈形〉に注目してほしい。〈形〉を押さえるこ とで誤読を防ぐことができる。 学習テーマ
よって呼び方が変
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3 ち足りている(至飽者各 足)」とまとめている。つまり、南人はコメを食べ満腹となり、北人はキビを食べて満腹となるが、 それぞれに食べ物を食べて満腹となる点で同じだ、というこである。実際に、続く第 2段落で、南 人の筆者はふだん食べない北方のキビを食べて満腹になった例が引かれている。よ って、 「同じで ある。」が正解と判定できる。 「物事を処理する」(弁償) 、「理詰めで話す」 問1 語句問題 ア 「一」には、「ひとつ」から派生して、「すべて」 (同一)、 「少し」 (弁別)、 (一切)、 は『一』である」 「最初・最高」(一位) (弁論・弁 (一見)など、さまざまな意味がある。 本文では、冒頭で「食べ物の満腹に対する関係(食之於飽) 人の例を挙げ、第 1段落の終わりで「いたって満腹である者はそれぞれに満
、「同じ・同じくする」
2 イ 「弁」には、「わきまえる・区別する」 明)などの意味がある。傍線部は、筆者が主人からキビを食べさせてもらったが、あまりに空腹で食べ たものが何なのか分からなかった、という文脈である。そのことは、食べ終わ 後(撤案而後)に筆 者が「私がいただいたはコメでしたか(豈稲梁也歟) 」と主人に問うていることからも分かる。よって、 「識別するゆとりもなかった。」が正解と判定できる。 なお、 「食事代を払う」、 「行儀よく食べる」は、「弁」 の字義に合わないので、最初に消去され る。第2講問1でも述べたが、 「語句問題は辞書的な意味を優先」 ということは共通テスト小説と同じ なので、徹底してほしい。 正解 ア イ 3 5 = 3 =
と述べたうえで、南人と北
2
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第 4 講 李贄『焚書』
1 と考えれば良い。「~や」と訓むので、 ・ が残る。 は「んや」と訓んでは反語になってしまうの で、誤り。 次に、二つめの「也」だが、文末にある場合は、断定の助動詞「なり」 助詞「や・か」と訓むかのいずれかである をもってほしい(第2講問2参照) 。 5 問2 書き下し文を問う問題 傍線部にある二つの「也」に注目しよう。 一つめの「也」は文中にあるが、これは 〈意味の提示〉と呼ばれる用法で、副助詞の「は」
として訓むか、疑問・反語の終 (今之黍稷)と以
(第1講問3参照)。本文では、今食べたキビ 「の」ととるべきである。傍線部
2 前に食べたキビ(向之黍稷)が異なるはずはないので、 のように「(非ず) や」と疑問で訓むのは無理 がある。よって、 が正解と判定できる。 なお、「今之黍稷」 と「向之黍稷」が対の関係にあると捉えれば、 のように「今の黍稷」 「向には之の 黍稷」と違う訓み方をするのは不自然だ。ここでの「之」は、格助詞の 対句的な視点 2 1 2
を見るときは、
の役割をする
正解
1
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1 も適当なものを、次の ~ のうちから一つ選べ。 且 か つ今の黍稷や、向 さき の黍稷に異なる者有るに非ざるなり。 且つ今の黍稷や、向には之 これ の黍稷に異とする者有るに非ずや 且つ今の之 これ 黍稷なり、向の黍稷に異なる者有るに非ずや。 且つ今は之が黍稷なり、向の之の黍稷に異なる者有るに非ざるなり。 且つ今は之黍稷ならんや、向は之黍稷なる ずや。 言葉の中で「子」と言っているのだから、もちろん筆者自身のことを指す。よって、 e「我」と f 「余」が正解である。 冒頭の【学習テーマ】で述べたように、本文は人物関係を把握しながら読み進めることが肝心だ。特 選択肢をチェック! 文中の「也」 (〜や)は 「意味の提示」 の働き 名詞(今 ・向) と名詞(黍稷) を 結んでいるから格助詞「の」 反語ではない 5 問3 人物を特定する問題 「子」は、親しい同輩や後輩に対して用いる敬称(二人称) だ 1 2 3 4 5 5 6 問2 傍線部⑴「 且 今 之 黍 稷 也、 非 レ 有 下 異 二 於 向 之 黍 稷 一 者 上 也。 」の書き下し文として最 。本文では、「主人」が筆者に語りかけた
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第 4 講 李贄『焚書』
5 に、漢文では同一人物をさまざまな名称で呼ぶことがあるので、間違えないように、誰なのかを書き込 みながら読んでいこう。 正解 ・ (順不同) 問4 理由説明問題 まず、傍線部にある「則」に注目しよう。前半の句で、 「両人(南人北人)が土地を入れ替えて (コメ とキビを)食べたならば」と仮定条件が示されている。 「則」は順接であり、逆接仮定条件を表わすこと はない ので、逆接で「入れ替えても」としている ・ ・ は誤り。 と が残る。 次に、両人がコメとキビを「相ひ棄て」ない理由は、傍線部後「顧に之を棄つべけんや (どうして 棄てられようか)」 と反語を用いて言い換え、「何ぞや (なぜか)」 と改めて問いかけて、「真に飢うる者は 択ぶこと無ければなり」と自ら答えている。他に食べるものがなければ、それを食べなければ仕方がな い。だから、コメの方が良いキビの方が良いなどと選んでいる場合ではなくなる、ということである。 よって、「食べざるをえない」とある が正解と判定できる。 は「好まなくなる」が誤り。 1 4 5 2 3 3 2
6 最終的には本文の読みで解答を確定したが、「則」が順接であって逆接ではないという点で、早くも 選択肢が二つに絞れている点に注目してほしい。句法や語の解釈が間違っていたら、その選択肢は正解 にはなりえない。 まず句法や語で選択肢を見極める という解き方を徹底してほし。 正解 3
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5 「道 の孔子・老子に対する関係は、まるでコメとキビの南人と北人に対する関係のようなものだ」となる。 選択肢をチェック! 順接仮定条件 逆接仮定条件ではない 「真飢者無択也」に 合致
1 「相 ひ棄て」ないのか。その理由として最も適当なものを、次の ~ のうちから一つ選べ。 住む場所を南北入れ替えても、南人はキビを好まないし、北人はコメを好まないから。 住む場所を南北入れ替えれば、南人もコメを 好まなくなるし、北人もキビを 好まなくなる から。 住む場所を南北入れ替えれば、南人もキビを 食べざるをえないし、北人もコメを 食べざる をえないから。 住む場所を南北入れ替え ても、南人はコメを食べざるをえないし、北人はキビを食べざる をえないから。 住む場所を南北入れ替えても、南人はあくまでもコメを作るし、北人はキビを作るから。 3 4 5 問4 傍線部A「然 使 二 両 人 者 易 レ 地 而 食 一 焉、 則 又 未 二 始 相 棄 一 也。」とあるが、なぜ、
1 2 問5 解釈問題 「A之於B」は、「AのBに対する関係」ということである。これを踏まえて傍線部を直訳すると、
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第 4 講 李贄『焚書』
2 ・ は誤りと考えられる。 次に、「コメとキビの南人と北人に対する関係」であるが、第 1段落では、「南人はコメを美味しいと 思い、北人はキビを美味しいと思う」ということが述べられていた。ここから、「道の孔子・老子に対 する関係」の意味するとろは、南人と北人で好みが違うように、孔子と老子では道の捉え方が違う、 ということだと推論できる。選択肢を見ると、 は「違い」という言葉を用いて以上の関係を的確に表 現しており、正解判定 は、「態度」 が「同じ」だと言うだけでは何の説明にもなっていない。 は「重要な食糧である」が 誤り。問4で見たとおり、他に食べるものがなければそれを食べざるをえなという意味では、コメも キビもそれでなくては駄目だという「重要な食糧」ではない。 改めて選択肢を見ると、 「違い」に言及しているのは しかない 。無方針のまま選択肢を眺めていて も正確な判断はできない。あらかじめポイントを見定めることが肝心だ。 正解 問6 理由説明問題 筆者が「嘆」じた理由は、傍線部に続く最後の一文「使余之於道若今之望食、則孔老暇択乎」 で示され 4 5 1 3 5 5 これではまだ意味が分からないので、少しずつ解きほぐしていこう。 まず、「南北」は 「北人」の意味でしか用いられていないから、「南方の地域」 「孔老」と対応しているので、人のことを指すとみるべきである。本文の第 「北方の地域」としている 1段落で も「南人」
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ことに注意して解
「ン(や) の道に対する姿勢を、今の食を求める姿勢のようにさせれば、孔子だ老子だと となる。筆者は「今後、コメの方が食べたいとかキビの方が食 という主人の言葉を聞いて、 道を求めるのに 」と送り仮名がされているので、反語である
学習アドバイス
1 本講の問題は、第1~3講の問題と比べると、難易度が高かったように思う。しかし、問2は対句 的な視点から、問4は「則」が順接であることから、選択肢を絞ることができた本文の読解が難 しいときこそ、〈形〉 に注目しよう。〈形〉 から判断できることはいくらでもある。
2 と気づいたのである。 以上の内容を踏まえて選択肢を見ると、 が「自分は道を求める心がまだ切実でなかったのだと思 い知らされた」と筆者の気持ちを端的に表現していて正解と判定できる。 は「どちらをも選択して はいけない」が誤り。 は「両方とも学ばなければならない」が本文にナシ。 は「食べ物にこだわっ てはいけない」が誤り。あくまでも主題道を求める姿勢である。 は「どちらを選択すべきか考える 余裕が得られそうだ」が誤り。反語の意味を取り違えている。 誤答するならば であろうか。たしかに孔子・老子の両方を学ぶ必要はあるだろうが、本文には書 かれていない。常識的な内容が書かれている選択肢ほど、本文の記述とよく照らし合わせてほしい。 正解 3 4 5 3 2 ている。 釈すると、「自分(筆者) 選んでいる余裕はあろうか(いやない)」 べたいとか思うな(今以往、不作稲粱想、不作黍稷想矣)」 えり好みしている場合ではない 文末の終助詞「乎」は、
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第 4 講 李贄『焚書』
4 第 講 解答欄
問6
問5
問4
5 問3 ・ × = ・順不同 6 4 2 8
1 問2 8
問1
ア 3
2
5
3
イ
10
8
8
2 4 2 8 × =
37 点
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らひて 甘 うま しとす。 此 こ の 一 いち 南 なん 一 いち 北 ほく の 者 もの 、 未 いま だ始 はじ めより相 あ ひ羨 うらや まざるなり。然 しか れ
糧 りやう を絶 た つこと七 しち 日 じつ 、飢 き 凍 とう 困 こん 踣 ぼく し、主 しゆ 人 じん
蓋 けだ し 嘗 かつ て 北 きた に 学 まな びて 主 しゆ 人 じん の 家 いへ に 食 しよく せ り。天 てん 寒 さむ くし大 おほ いに雪 ゆき 雨 ふ ること三 さん 日 じつ 、
て 飽 あ く 者 もの は 各 おのおの 足 た り、 真 まこと に 飢 う うる 者 もの は 択 えら ぶこと無 な ければなり。
稲 たう を食 く らひて甘 うま しとし、北 ほく 人 じん は黍 しよ を食 く
れに足 た る者 もの 、彼 かれ を羨 うらや むこと無 な しと雖 いへど も、 顧 あ に之 これ を棄 す つべけんや。何 なん ぞや。至 いた つ
ども両 りやう 人 じん の者 もの をして地 ち を易 か へて食 く らは ざるなり。道 みち の孔 こう 老 らう に於 お けるは、猶 な ほ 稲 たう 黍 しよ の南 なん 北 ぼく に於 お けるがごときなり。此 こ しめば、則 すなは ち又 また 未 いま だ始 はじ めより相 あ ひ棄 す て
を 望 のぞ みて 嚮 きやう 往 わう す。 主 しゆ 人 じん 我 われ を 憐 あは れみて、
書き下し文 現代語訳
食 しよく の 飽 はう に 於 お けるや、 一 いつ なり。 南 なん 人 じん は
思うに、かつて私が北方に遊学していた時にある主人の家に いそうろうしていた。天候は寒く雪の降る日が三日続き、食料 も尽きて七日間がたち、飢えと寒さで困窮しはて主人に食べ 物を乞いにいったことあった。主人は私のことを憐れんで、
ない)。なぜか。いたって満腹な者はそれぞれに満ち足りてい るが、本当にお腹が空 いる者はどちらかを選ぶことなどな いからである。
どちらか一方で満ち足りている者がもう一方を欲しがるこは ないけれども、どうして棄ることができようか(いや、でき
ない。道に孔子と老子とが説くちがいがあるのは、コメとキビ に南方と北方とで常食とするちがいがあるようなものである。
羨むことなどない。けれども、両人が住む場所を南北入れ替え て食事をすれば、また始めから互いに食べ物を棄てることなど
どんな食べ物も満腹にさせるという点において同じである。 南方の人はコメを食べて美味しいと思い、北方の人はキビを食 べて美味しいと思う。南方の人と北方の人とが始めから互いに
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第 4 講 李贄『焚書』
り。案 あん を撤 てつ して而 しか る後 のち に問 と ひて曰 い はく、 「 豈 あ に 稲 たう 粱 りやう なるか。 奚 なん ぞ 其 そ れ 此 こ の 美 び あ らんとは」と。 主 しゆ 人 じん 笑 わら ひて 曰 い はく、
「 此 こ れ 黍 しよ 稷 しよく や、 稲 たう 粱 りやう と 埒 ひと し。 且 か つ 今 いま の 黍 しよ 稷 しよく や、向 さき の黍 しよ 稷 しよく に異 こと なる者 もの 有 あ るに非 あら ざるなり。惟 た だ甚 はなは だ飢 う う、故 ゆゑ に甚 はなは だ美 び
余 われ 之 これ を 聞 き き、 慨 がい 然 ぜん として 嘆 たん ず。 余 われ の 道 みち に於 お けること今 いま の食 しよく を望 のぞ むがごとく ならしめば、則 すなは ち孔 こう 老 らう 択 えら ぶに暇 いとま あらん
や。
なり、惟 た だ甚 はなは だ美 び なり、故 ゆゑ に甚 はなは だ飽 あ く。 子 し 今 いま より以 い 往 わう 、稲 たう 粱 りやう の想 さう を作 な すことな かれ、黍 しよ 稷 しよく の想 さう を作 な すことなかれ」と。
黍 しよ を炊 た きて我 われ に餉 おく る。口 くち に信 まか せて大 おほ い に嚼 く らひ、未 いま だ弁 べん ずるに暇 いとま あらざるな
キビを炊いて私に食べさせてくれた。私は食べ放題に食べて、 それがコメかキビかを識別する余裕さえなかった。食膳を片付 けた後に(私は主人に)尋ねて言った、 「(いただいたのは) コメ でしたか。コメがこんなに美味しいとは知りませんでし」と。 主人が笑って言うには、「 (あなたに食べさせたのは)キビだが、
私は主人のこの言葉を聞き、感銘を受けてため息をついた。 私の、道を探究する気持ちが今日のように食べ物をひたすら欲 する気持ちのようにさせれば、孔子が良い老子が良いなどと選 んでい余裕などあるだろうか(いや、そんな余裕はない) 。
(食べ物という点で)コメと同じだ。それに、今あなが食べ たキビは以前に食べたキビと何にも異なるところはない。だ、
ひどくお腹が空いていたから美味しく感じ、美味しく感じたか ら満腹になったというだだ。あなたは今後、コメだけ食べた いとかキビだけ食べたとか思ってはらない」と。
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重要語句
□
□
□
何也 「なんぞや」と訓む。「なにか」と事物を問う場合と、 る。本文では、次の一文に 蓋 「けだし」と訓む。「思うに」の意。
豈 本文では、送り仮名に「ンヤ」とないので、疑問である
(無ケ)レバ」と送り仮名がされているので、後者である。 (第3講問6参照)。
「どうしてか」と理由を問う場合があ
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第 講 5
第 5 講 姚元之『竹葉亭雑記』
9 押韻を踏まえて漢詩の空欄 問題の連動性を意識して、解答 手が 姚元之『竹葉亭雑記』 センター試験以来、漢詩はたびたび出題されているが、その際には必ず押韻 を踏まえた空欄補 充問題が出されている。押韻の基本を押さえたうえで、確実に正解できるようにしたい。 大問の中にある、それぞれの問題は、一つの文章・一つの作品から出題され ている以上、完全 に独立しているわけではなく、相互に関係がある。ある問題の答えが別の問 題を解くうえでのヒ ントなることもよくあるので、連動性をつねに意識しよう。 学習テーマ
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2 ことがある。 本文では傍線部に続いて、古詩の試験でいつも成績最上位者(冠軍)であったというのであるから、 「詩賦を得意とする」と解釈すべきであろう。選択肢を見ると、 「特技」がこの意味に最も近い。他の 選択肢は、「善」の字義にそぐわない。よって、正解は と判定できる。 進行するということから「病気」を意味するようになり(疾病・疾患など) 、病気は苦しいのであるか ら、「苦しむ・悩む」 (疾苦)・ 「にくむ・ねたむ」(疾視・疾怨など) といった意味が派生した。「嫉妬」も 問1 語句問題 ⑴ 「善」は、客語となる名詞の「詩賦」の上にあるので、文構造的に動詞であると考えられる 合、形容詞「善し」の連用形 「善く」に、サ変動詞「す」 をつけて「よくす」と訓み、 ができる」の意を表わす。善悪の善の意味ではない。なお、 「能」も同様に、動詞化して「よくす」 、早く
。動詞の場 「~を得意とする・~ と訓む
2 ⑵ 「疾」は、矢のように早いことを表した会意文字で、原義は「早い」であるが(疾走・疾風など) 「疾妬」と記すことがある。 本文は、前日に深酒して試験中に寝てしまった銭明経を、他の受験生は毎回首席なのを妬んで起こさ なかった(傍線部A・問3で後述) という文脈であるから、 「憎悪」が最も適当である。 「閉口」は字 義にそぐわない。 「病気」・ 「迅速」・ 「苦痛」は文脈に合わない。よって、 正解は と判定できる。 語句問題は、とにかく漢字の意味に即して考えることが肝心だ 。そして、繰り返すが、漢和辞典とお 友達になろう。引いた分だけ漢字に強くなり、読解力もアップする。 正解 ⑴= ⑵= 5 4 1 2 3 5 2 5
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第 5 講 姚元之『竹葉亭雑記』
問2 訓みの問題 ア 第3講問1で解説したように、「竟」は、動詞では 詞の「大酔(す) 「すでに」と訓む字としては、「既」 のほかに、傍線部Bにある「已」などがある。 このように、同じ漢字が繰り返し出題されることがある。だからこそ、本文に出てきた分からない漢 字は漢和辞典を引こう。 。もとは耳たぶのように曲がりくねった様 子を表した文字で、そこから、竹のようには割り切れず、間を置く気持ちが込められて、 「そこで」 「や と訓む。傍線部 「をふ」、副詞では「つひに」
と訓む。本文では、 動 。よって、「つひに」が正しい。
1 ウ 「安」は疑問詞で、理由を問う場合は「いづくんぞ」、場所を問う場合は「いづくにか」
イ 「乃」は接続詞として「すなはち」と訓む(第3講問2参照) のある漢詩の解釈から判断するのは難しいが、すでにアとイで正解は と確定しているので、選択肢 にあるとおり「いづくんぞ」と訓む。むしろ、本問で訓みが分かったうえで、問6の解釈問題に取り組 むというのが実戦的であろう。 漢文に限らず、現代文や古文でも 設問どうしが連動している ことがあるので、前問の解答を次の問題 に生かすこを考えると、スピードアップにつながる。また、順番に解いていたときは分からなかった が、後の問題の解答を確定させたうえで前の問題に戻ると分かるというようなこともある。いずれにせ
」の上にそえられているので、副詞であると判断できる むなく」 などの意で用いられる。本文においても、爆睡する銭明経のそばを通り過ぎた役人(納巻者)が、 どうしたものかと思いつつもうすぐ試験終了であると告げたというニュアンスが、乃」の語で表現 されている。
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1 ・ は名詞として「之の使ひ」 「不肯」が「呼 之」にかかっていない。このように訓むのであれば、語順は「呼之不肯使醒」であるはずだ。よって も誤り。 残るは ・ だが、両者を比較すると、 は「之」を動詞(ゆきて) ととり、 は名詞(これ)とと るという違いと、 は「不肯」が 「呼之」にだけかかっているが、 は「使醒」にまでかかっているとい 1 性はあるが、 はすでに消去している。また、 は「之を呼ぶも」と書き下しており、 3 2 んで反語形とる(どうして~しいか。いや~する) 。 選択肢を見ると、 ・ は動詞として「肯んぜず」としている。 3 3 2 2 4 5 4 5 4 5 正解 問3 返り点・書き下し文・解釈の問題 ⅰ 返り点と書き下し文の組合せを問う問題 この形式の問題はセンター漢文以来の定番であるが、 は「不敢」と同義で、 「肯定する・承知する」の意で、可能 が肝心だ。 まず、「使」はもちろん使役形で、 うとはしない」の意である。なお、語順をひっくり返して「敢不」 としているが、「使ひ (使いの者)」は文中に登場しない。よって消去できる。 次に、「不肯」 よ、問題の連動性ということをつねに意識してほしい。 「使醒」で「さめしむる」と訓む。 「あへて~せず」と訓む。
「自分の意思では~しない・進んで~しよ とすると、「敢へて~せざらんや」 と訓
とにかく一つの句法・一つの語に着目する
こと
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第 5 講 姚元之『竹葉亭雑記』
5 5 3 う違いがある。しかし、「之きて」ではどこに行ったのかが不明だし、そもそも試験中に受験者が動け るはずもない。また、他の受験生は毎回首席をとる銭を妬んでいるのだから(問1・⑵)、起こしたと は考えられない。よって が正解と判定できる。 正解をズバリ決めきれない場合は、消去法を用いることになる 。可能性のない選択肢をていねいに消 去しながら、正解にたどりついほしい。 ⅱ 解釈問題 ⅰで返り点と書き下し文が確定していれば、正解は でズバリ決まる。ⅰで確定できなかった場合 でも、「起こそうとしなかった」と解釈している選択肢は しかないので、選ぶことができるだろう。 他の選択肢には、 「目覚めさせた」、 「声をかけて起こそうとした」、 ・ 「使いの者」と明確な 誤りがあるので消去できる。そしてⅱが と決まれば、ⅰもそれに対応した が選べる。 問題は、問1から順番に解かなければならないというルールはない。分からなかったら立ち止まらず、 先に進もう。後の問題を見てから戻ると、連動していて解けことがある 正解 ⅰ= ⅱ= 問4 内容説明問題 本問は、たんに傍線部の解釈というのではなく、その「前後の状況」が問われている。たしに、傍 線部の「已無及矣」を「もはや及ぶことはない」 と直訳しただけでは意味が分からない。前後の内容を押 3 3 1 2 4 5 3 5
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さえて補っていこう。 まず、傍線部の直前には「銭始瞢然」とある。なぜ銭は 」としたのか。銭のそばを 通りすぎた試験官が告げたからだ(納巻者過其旁、乃告之)。銭に何を告げたのかは書かれていないが、 文脈から十分に推測できるだろう。問3で見たとおり爆睡する銭を他の受験生は起こしてくれなかっ た。試験官が告げのは試験時間であったと考えられる。そして、もう時間がないことを知っ、銭は 「瞢然」としたのである。 このように前の部分を捉えれば、傍線部の「無及」とは、答案を完成させる時間がないということだ と解釈できる( 「及ぶ」は「到達する」 の意)。そこで、銭は大慌てで (卒爾)お題(天柱賦) を試験官にたず ね、長編の「賦」は無理なので、七言絶句を作ったのである。 瞢然」としていたのだから、他の受験生のそのような仕打ちにも気づいてい には書かれていない。また、大 「いそいで題を尋ね」がいま見た前後の状況に合致する。また 「強引に」も「卒爾」 の意に合わない。 「瞢然(=ぼんやり)
1 以上の内容を踏まえて、選択肢を吟味しよう。 「あきれた」が誤り。「 慌て(卒爾)だったので 「落ち着いて」は誤り。 「ようやく気づいた」も「瞢然」の解釈とし妥当である。 「解答用紙を取り戻すことはできない」が誤り。試験官は問題用紙を回収したわけではない。 「後悔してもはじまらない」が「無及」 の解釈として不適当。また、 2 ないはずである。 「自分以上の実力者はいない」という自信が銭にあったのか、本文 「試験が終了間近」「もう時間がない」 3 4 5
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第 5 講 姚元之『竹葉亭雑記』
3 問4 傍線部B「已 無 レ 及 矣」の前後の状況を説明したものとして最も適当なものを、次の ~ のうちから一つ選べ。 1
3 銭明経は、仲間が起こしてくれなかったことに あきれたが、もう仕方がないので、ひとま ず題を尋ね絶句を書いた。 銭明経は、はじめ事態飲み込めなかったが、 自分以上の実力者はいないので、 落ち着い て題を尋ね絶句を書いた。 銭明経は、試験が終了間近なことに ようやく気づいたが 、 もう時間がない ので、 いそいで 題 を尋ね絶句書いた。 銭明経は、当初 気が動転したが、 解答用紙を取り戻すことはできないので、あわてて題を 選択肢をチェック! 「 然」 「無及」 「卒爾」 1 2 3 4
3 よって、正解は と判定できる。 改めて を見ると、「ようやく気づいた」 「卒爾」に対応していることが分かる。選択肢の正誤を判定するうえで、 本文の語句との対応 はつねに 意識してほしい。 正解 「もう時間がない」「いそいで」
「無及」
が、それぞれ「瞢然」
5
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5 3 尋ね絶句を書いた。 を尋ね絶句を書いた。 問5 漢詩の押韻と解釈を踏まえた空欄補充問題 本講の【学習テーマ】として掲げた、漢詩の問題だ。センター試験以来、漢詩が出題されたときには、 押韻を踏まえた空欄補充問題が必ず出る。決して難しくはないので、本問で解き方を確認して、確実に 正解できるようにしてほしい。 まずは押韻の基本から。 押韻とは、句末に同じ韻の字を用いる規則のこと で、「韻を踏む」とも言う。 韻は、漢字を音読みして、最初の母音以下の部分の発音で確認できる。例えば、次に挙げる漢字では、 傍線部が韻にあたる。 (例) 余 yo 生 sei 天 ten 雪 setsu 次に、押韻する句は、五言絶句・五言律詩は偶数句で、七言 ・七言律詩は偶数句に加えて第一句 で韻を踏む。ただし、第一句は押韻されていないことも多い(「踏みおとし」 と言う)ので、 基本的に偶 数句押韻すると考えれば良い 。 ※正解の のみが本文の語に対応した要素がすべてそろっている 銭明経は、酒のために意識が 朦 もう 朧 ろう としていたが、 後悔してもはじまらないので、 強引に題
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第 5 講 姚元之『竹葉亭雑記』
1 4 4 それでは問題に行こう。本問の漢詩の形体は七言絶句なので、偶数句と第一句(起句)で韻を踏むは ずだが、第一句が「望」 ( bou )、第四句が「間」 ( kan )で、韻がそろっていない。このような場合は、第 一句を踏みおとしと考えて、偶数句の方を優先させよう。選択肢を見ると、「間」( kan )と同じ韻なの は、 「淡」 ( tan )と 「山」 ( san )の二つだ。 ここからは解釈で正解を確定させよう。ポイントは、 空欄を含む「数点 」 がその直前の「一片白 雲」と対の関係になっている ということだ。この点を踏まえて と を比較すると、 が「白い雲の 切れ間 「数本の淡い光」と対になっていないのに対し、 は「ひとひらの白い雲」 「幾つかの山」と対に なっている。よって、 が正解であると判定できる。 本問では解釈も求められたが、まずは押韻を優先して考える。これが鉄則だ。 正解 問6 理由説明問題 学使の銭に対する評価、傍線部の直前で「此人胸中不知呑幾雲夢」と述べられている。直訳すれば、 「この人(銭)の心にはどれだけ広大な湿原 (雲夢)が広がっているか測り知れない」である。銭の想像力 の大きさを比喩的に表現したものと捉えられる。 では、学使はなぜそのような評価をしたのだろう。銭試験時間終了間際に大急ぎで作った七言絶 句、とりわけ第三句・第四句の内容に踏み込む必要がある。 傍線部ウの「安」の訓みは、問2ですで理由を問う 「いづくんぞ」で確定してる。また、 「(得) ン」 a 4 1 4 1 4
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1 と送り仮名がされているので、 反語 である。これを踏まえて、まずは直訳してみよう。「どうしてわが 身を天柱の頂点に置い、さかさまに日月が人の世界の間を動いているのを見ることができようか。い や、できない」となる。 さらに踏み込めば、「置身天柱頂」というのは絶対に不可能なことであるから、 「(できないけれども) 見てみたいものだなあ 願望・詠嘆の気持ちが込められている と解釈できるだろう。 そのように考えれば、ありえないことまで思い浮かべる想像力の大きさを学使は「此人胸中不知呑幾 雲夢」と評価したのだと分かる。 以上の内容を踏まえて、選択肢を吟味しよう。 冒頭の「求めていた形式と異なる作品であることに不満はあった」が本文にナシ。また、 「駆けおり たい」にあたる文言も漢詩中にない。 と同様に「違う形式の作品を提出したことは問題ではある」が本文にナシ。また、 「逆方向に運行 する」は詩の解釈として誤り。「倒看~」 は上下さかさまに見るということである。加えて、「詩の奇抜 時間的余裕がないの 「型破りな発想」を学使が「 高く評価した」ということもない。 1
2 で幻想的な着想」も「呑幾雲夢」という評価からズレる。 「逆に上から眺めてみたい」という詩の解釈、「詩の気宇壮大な着想」という学使の評価、ともに本 文の内容に合致している。 「違う形式の作品をあえて提出した大胆さ」が誤り。問4で見たとおり、賦を作る で七言絶句を作ったまでである。また、その 3 4 5
4 と同様に「要求されていた形式とは異なる作品を提出しても気にしない大らかな性格」が誤りだ
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第 5 講 姚元之『竹葉亭雑記』
3 正解 問6 傍線部D「仍 取 二 第 一 一 」とあるが、学使が銭明経を第一位にした 理由として最も適当なも のを、次の ~ のうちから一つ選べ。 求めていた形式と異なる作品であることに 不満はあったが、自身を天柱の頂上に置き、太 陽や月を背にしながら人間界まで 駆けおりたいという、詩の力強くかつ雄大な発想を高く評 価したから。 違う形式の作品を提出したことは 問題ではあるが、天柱の先端に身を置いて、太陽や月が この世の中を 逆方向に運行するのを見てみたいという、 詩の奇抜で幻想的な着想を高く評価 選択肢をチェック! 1 5 1 2 も大切である。
3 し、それを学使が「高く評価した」ということもない。 よって、正解は と判定できる。 改めて選択肢文の書き出しを比較すると、誤りの選択肢は「不満はあった」 余計なこと書き加えられていな選択肢は正解の可能性が高い
3 釈を加えているのに対し、正解の は「本来求めていた形式とは異なる作品ではあった」と事実を述べ ているだけである。
「大胆さ」などと勝手な解 。こうした着眼点
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学習アドバイス
5 本講の最大のテーマは、問5の、漢詩で出題される押韻を踏まえた空欄補充問題の攻略であったが、 解答を一つに絞り込む際に、対句的な視点(第2講参照)を用いたということにも注目してほしい。 実は、共通テスト初年度にも同じ解き方する問題が出題されたので、第7講で扱おう。 ※余計な要素を加えず、本文 と詩の内容を過不足なく説明している が正解 3
4 違う形式の作品を あえて提出した大胆さと、天柱の頂上に身を置いて、太陽や月が人間界 を運行する様子を逆立ちしながら見てみたいという、詩の意表をつく 型破りな発想を高く評 価したから。 要求されていた とは異なる作品を提出しても 気にしない大らかな性格と、天柱の先端 に身を置き、太陽や月が人間界を走るのを見上げたいという、詩の柔軟な発想を高く評 価し たから。
3 したから。 本来求めていた形式とは異なる作品ではあったが、我が身を天柱の先端に置いて、太陽 や 月が人間界を巡ってゆくのを 逆に上から眺めてみたいという、 詩の気宇壮大な着想を高く評 価したから。
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第 5 講 姚元之『竹葉亭雑記』
5 第 講 解答欄
問6
問5
問4
ⅰ 5 問3 ⅱ × = 3 5 2 10
問2
問1
⑴ 2 ⑵ × = 5 4 2 8
3
4
3
1
10
8
8
6
40 点
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及 およ ぶ無 な し。卒 そつ 爾 ぢ として題 だい を問 と ひ、七 しち 言 ごん
を疾 にく み、肯 あ へて之 これ を呼 よ びて醒 さ めしめず。
ぎ竟 つひ に大 たい 酔 すゐ し、号 がう に入 い るに輒 すなは ち酣 かん 睡 すい す。 試 し を同 おな じくする者 もの 其 そ の試 し 毎 ごと に首 しゆ に居 ゐ る
納 なふ 巻 くわん の者 もの 其 そ の旁 かたは らを過 す ぐる有 あ りて、乃 すなは
絶 ぜつ 句 く 一 いつ 首 しゆ を書 しよ す。詩 し に云 い ふ、
ち之 これ に告 つ ぐ。銭 せん 始 はじ め瞢 ぼう 然 ぜん たるも、已 すで に
ず 冠 くわん 軍 ぐん たり。 一 いつ 歳 さい 題 だい は 天 てん 柱 ちゆう の 賦 ふ たり。
吾 わ が 郷 きやう の 銭 せん 明 めい 経 けい 詩 し 賦 ふ を 善 よ くす。 毎 まい 歳 さい 督 とく 学 がく の科 くわ 歳 さい に古 こ 詩 し を試 こころ みるに、銭 せん は必 かなら
銭 せん 場 ぢやう に入 い る時 とき 、酒 さけ を飲 の むこと多 おほ きに過 す
書き下し文 現代語訳
我 われ 揚 やう 子 す 江 かう 頭 とう に来 き たりて望 のぞ めば
一 いつ 片 ぺん の白 はく 雲 うん 数 すう 点 てん の山 やま
安 いづく んぞ身 み を天 てん 柱 ちゆう の 頂 いただき に置 お き
倒 さかしま に日 じつ 月 げつ の
人 じん 間 かん を走 はし るを看 み るを得 え ん
七言絶句一首を書いた。その詩はこう言う、 私が揚子江のほとりに来て遠くを眺めると、 ひとひらの白い雲といくつかの山があるばかりである。 どうにかして我が身を天柱の先に置いて、 (いつも見ている風景とは)さかさまに、太陽や月が人の 世界の間をかけめぐっている様子を見てみた いものである。
そばを通りすぎて、そうして間もなく試験終了の時間である ことを告げた。銭ははじめぼんやりとしていたが、すでに賦 を作るほどの時間はなかった。そこで、急いで題目をたずね、
を受けている者たちは、試験のたびに銭が首席であることを 憎んで、声をかけて起こそうとはしなかった。試験官が銭の
試験場に入る時、酒を飲み過ぎていて、ついに大いに酔っ払 い、試験室に入るやいなやぐっすり寝てしまった。同じ試験
私と同郷の銭明経は詩賦を作ることを得意とした。毎年、 試験の責任者が科試と歳試で古詩を作らせると、銭は必ず成 績最上位となった。ある年、題目は天柱の賦であった。銭は
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第 5 講 姚元之『竹葉亭雑記』
仍 よ りて第 だい 一 いち に取 と る。
学 がく 使 し 巻 くわん を 得 え て、 評 ひやう して 云 い ふ「 此 こ の 人 ひと 胸 きよう 中 ちゆう に 幾 いく 雲 うん 夢 ぽう を 呑 の むかを 知 し らず」と。
重要語句
□ □ 古詩 古体詩のこと。唐代以前の詩の形体で、形式・韻律などの制約が少ない。 (第3講問2参照)。
輒 「すなはち」と訓む。「いつも・~するたびに」の意
試験の責任者は、その答案を見て、評して言う、「この人 の胸のうちには、どれほどの雲夢が広がっているかも測り知 れない」と。よって銭を首席とした。
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第 講 6
42ページ 72 周煇『清波雑志』 の正誤を判定する らその選択肢は誤り
主語に着目して、選択肢を判別しよう 共通テスト漢文に限らず、現代文や古文においても、傍線部の主語は選択肢 うえで大きな要素となる。どんなに良さそうな内容でも、主語が違っていた である。傍線部を見たら、まず主語を確認するクセをつけよう。 られているような 場合、肯定か否定か混乱してしまうこがある。まず、疑問と反語見分けること、そのうえで、 的確に反語の意味を訳し出したい。 学習テーマ 反語を見抜いて的確に解釈しよう 傍線部の解釈問題で反語が問われることは多いが、特に否定語と重ねて用い
第 6 講 周煇『清波雑志』
・引っ
3 問1 語句問題 ア 「引」は、弓をひく(―)さまを表した会意文字だ。 張る( 「引率」) ・引き受ける( 「引責」) ・退く( て、休む( 「安息」) ・増える( 「利息」) ・活気( 「息を吹き返す」) などの意がある。 傍線部は、心がいやしく人情味がない(鄙下刻薄)子弟に対して「太息」するという文脈であるから、 「ため息をつく」と解釈できる。よって、 「嘆息」が最も適当である。 「息災」は、身に災いがない、つまり、安らか・健康であること、ここでの「息」は 「(~が)ない」 の意。 「息女」は、自分の娘のこと。「増える」 から「子ども」の意が派生する。 5 4 2 イ 「息」は、鼻(自)と胸 1 3 4 5
「誘引」)
1 などの意がある。 傍線部は、昔から名家の跡取りはたいてい振るわない(自昔名流後嗣類不振)という事例を に出し」た、という文脈である。よって、 「引用」が該当する。なお、 「引見」とは、目上の者が 目下の者を呼び寄せて対面することで、「引き寄せる」の意に当たる。 (心)の間を空気が出入するさまを表した会意文字だ。 「呼吸をする」から派生し 「引く」から派生して、引き寄せる( 「引き合い
2 「引退」) 「引」「息」はともに多義語であるが、 語源を知るとなぜそのような意味が生じたのかがよく理解でき る 。繰り返しになるが、気になる漢字は漢和辞典を引いて熟語や語の成り立ちを確認、共通テスト本 番のその日まで漢字力・語彙力の強化に努めてほしい。 正解 ア= イ= 5
3
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1 問2 語句問題 A 選択肢を見てまず気づくのは、 ・ ・ は「父兄」を主語とし、 ・ は「家庭教師」を主語とす るということだ。どちらが正しいかを判断するうえで、傍線部Aの一節が続く一節と対句の関係にある ことに注目してほしい。 厳則 利於子弟、而不能久、 ⇔ 「狎~」の一節は「父兄之託」 を客語 が主語ということはありえない。よって、「厳」 の主語も 3 4 5
2 ではなく、 ・ 「家庭教師」であると判断できる。 続いて、残った と を比較すると、 には「子どもの成績は向上する」とあり、 には「子ども の行儀はよくる」とある。家庭教師の役目を考えれば、 の「行儀」よりも の「成績」の方が妥当 であろう。よって、 が正解と判定できる。 選択肢の正誤を判別するうえで、「主語」は極めて重要なファクターである。解釈問題であると、 どうしても「内容」に目が行 しまうが 「主語」で選択肢が絞れるというケースは、漢文だけでなく、 現代文・古文の問題でも多い。 「主語」は文構造や前後の論理関係から確実に判定できる 。選択肢を見 1 ・ ・ 「父兄」 2 3 4 狎則 利於己、 而負其父兄之託。 「厳」と「狎」は対になっているのだから、主語は共通するはずだ。 にとっているから、「父兄」 5 4 5 4 5 5 4 4
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第 6 講 周煇『清波雑志』
1 さって、「~だろうか、いや、当然~ないはずだと解釈きる。否定されるのであるから、 「でき ないはずはない」、 「できる」、 「違いない」は誤り。よって、 「むずかしい」、 「できない」 に絞られる。 次に、前半の句を見ると、「多」に「ケレバ」 と送り仮名がされていることが注目される。「已然形+ ば」は順接であるから、逆接の 「としても」は誤り。よって、 が正解と判定できる。 なお、「已然形+ば」は、古文では順接確定条件 (~だから・~したところ)ある、漢文の訓読で は順接仮定条件(~すると)であることが多い。特に、傍線部Aのように「則」 を伴った場合は仮定形で ある。傍線部Bも、 のように「~しまうと」と 順接仮定条件 で解釈するのが適当である。 正解 A= B= 選択肢をチェック! 2 3 4 5 5 問2 傍線部A「厳 則 利 二 於 子 弟 一 而 不 レ 能 レ 久」・B 「前 人 取 レ 之 多、後 人 豈 応 二 復 得 一 」の 解釈として最も適当なものを、次の各群の ~ のうちから、それぞれ一つずつ選べ。 4 4 4 4 1 5 るときは、第一に「主語」に着目しよう。 B まず、傍線部後半の句の「豈(あに~んや) 」が反語で、再読文字の「応(まさに~べし)
」と組み合わ
A 厳 則 利 二 於 子 弟 一 而 不 レ 能 レ 久
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※主語で判別!
1 2 反語の訳として× 父兄が厳格だと、子どもの成績は向上するが、厳しく教え続けることはできない。 父兄が厳格だと、子どもの行儀はよくなるが、厳しいしつけを長く続けることはできな い。 父兄が厳格だと、子どもの将来にとって有利だが、長く子どもの面倒をみることはでき ない。 家庭教師 が厳格だと、子どもの成績は向上するが、厳しく教え続けることはできない。 家庭教師 が厳格だと、子どもの 行儀はよくなるが、長く子どもの面倒をみることはでき ない。 B 前 人 取 レ 之 多、後 人 豈 応 二 復 得 一 前の人が名声の多くを獲得したからには、 後の人も名声を受け継ぐことができないはずはない。 前の人が名声の多くを獲得したのだから、 後の人はそれを行動の手本にすることができる。 前の人が名声の多くを獲得したとても、 後の人が得る名声ほうが価値は高いに違いない。 前の人が名声の多くを獲得してしまうと、後の人が名声を獲得することはむずかしい。 3 4 5 1 2 3 4
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5 2 3 前の人が名声の多くを獲得したとしても、後の人が名声を受け継ぐことはできない。 問3 解釈問題 本問では、「だれが」と 「なにを」が具体的に問われている。まず、「だれが」 、つまり、傍線部Cの主 語はもちろん「士人」だが、それがだれのことを指すのかを考えよう。「士人」 とは、官位を受けた者・ 学芸に秀でた者のこと。この語義を知っていれば、「家庭教師」を指すことはすぐに分かるが、知らな くても、文脈から十分に推定できる。 傍線部は、鉅公の言葉を受けたもの。子の学業が振るわないため(業不進)、家庭教師が辞めようと 思っている(欲退)ことを察した (覚之)鉅公は、酒席を設けて話をした。それを受けて「士人」 は「解悟」 したというのであるから、文脈的にも「士人」は家庭教師であることは明らかであ よって、「鉅公 を主語とする ・ は消去できて、「家庭教師」を主語とする ・ ・ が残る。 5 1
4 次に、「なにを」悟ったのか。これは、鉅公の言葉を踏まえて考える必要がある。鉅公は、昔から名 家の跡取りはたいてい振るわないという事例を引き合いに出し(引自昔名流後嗣類不振)、問2 ・Bで見 たとおり、前の人が名声の多を獲得してしまうと、後の人が名声を獲得するのはむずかしいと述べた。 「前人」は鉅公自身、「後人」はその子にあたると考えられる。名家の跡取りが振わない例などいく らでもある。学業が進まなくてもあなた家庭教師)のせいではないと鉅公は言いたいのである。 家庭教師は、鉅公のそのような意図を「解悟」した。それ、その後は安心して教え続けることがで 逆接ではないので× ※〜レバ=順接仮定条件(〜すると)
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1 以上の内容を踏まえて、残る ・ ・ の選択肢を吟味しよう。 は、「子どもの成績不振を責められていない」が、いま見た内容に合致する。書き出しの「辞職し ようとしていた」も、「欲退」 に対応している。 は、「解任されるであろう」が誤り。家庭教師が鉅公の言葉をそのように受け取ったならば、安心 して教え続けられるわけがない。同様の理由で、 も「減給されるであろう」が誤りである。よって、 が正解と判定できる。 本問は、「だれが」 「なにを」と問われる内容が明記されていたが、そうでない場合も、 主語は? 目 的語は? と要素に分解すると、選択肢が見えてくる 。全体を眺めていても、なかなか絞りきれない。 焦点を定めるということを心がけほしい。 正解 問4 返り点・書き下し・解釈に関する問題 ⒜ 返り点の付け方と書き下し文の組み合わせを問う問題 この形式の問題にも慣れてきたと思うが、とにかく 一つの句法・一つの語に着目する ことである。 まずは使役形「使」に目が行くだろう。 「使AB」で「AをしてBせしむ」 と訓む。Aが使役の対象と なる名詞、Bが動詞で、「AにBさせる」の意である。本文では、Aが 「之(=人家子弟醇謹及俊敏者)」 、 Bが「在(ある) 」にあたり、「之をして~に在らしむ」 と訓む。選択肢を見ると、このように書き下して 2 3 1 2 3 1 1 きた(其迹遂安) 、ということである。
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と訓
2 いるのは と しかない。早くも二択に絞られた。 次に注目してほしいのが、「欲」の語だ。返読文字として、下に動詞をとり、 「欲A」で「Aせんと欲 す」と訓む。 「Aしたいと思う」の意である 。傍線部では、「使」から返って 傍線部中にはたいてい、ポイントとなる句法・語が複数含まれている。実戦的は、すべてのポイン トに気づかないこともあるが、一つに着目するだけでも、選択肢を絞り込むことができる。正答率を高 める工夫をしてほしい。 ⒝ 解釈問題 ⒜で書き下し文が 「必ず之をして尊貴の所に在らしめんと欲す」と確定していれば、解釈は難しく はない。「之」は 「醇謹及俊敏」な子弟を指す。そうした教え子を、高い地位(尊貴之所) につかせたいと 思うということだ。よって、 が正解と判定できる。 は「高官のもとに派遣したい」、 は「皇帝の役に立つ人物にしたい」、 は「結果」、 は「理 由」が誤り。それぞれに対応す文言が傍線部中にない。なお、 ・ ・ は使役の意味も含まれて いない。こうした点から選択肢を絞っていくのも、実戦的には極めて重要である。 正解 ⒜= ⒝= 5 む。 ・ を比較すると、このように書き下しているのは の方である。 は返読文字として訓ん でいない。よって、 が正解と判定できる。 2 5 2 5 2 2 1 2 3 4 5 2 3 5 2 1
「(在ら)しめんと欲す」
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問5 解釈問題 「以A為B」は、 「以為」と熟語にして「おもへらく」と訓むことがある。 傍線部は、Aにあたる「厚‐薄」と、Bにあたる 「以厚為隆、 以薄為殺」となる。そのようにして解釈したのがそれぞれの選択肢である。「隆」を「ていねいに教え (る)」 、「殺」を 「いいかげんに教える」と解釈している点は、全ての選択肢に共通する。よって、「厚‐ 薄」の意味するところが正解を決めるポイントとなる。 そこで、傍線部の直後にある、「亦た笑ふべし(亦可笑矣) 」という文言に注目しよう。傍線部のよう 「ていねいに教え」たり「いいかげんに教え」 たりと態度を変える最近の教師ども(今教子 「AをBとみなす」の意 「隆‐殺」が対になっており、分解すれば、 。「為」には
「思う」の意があり、
1 弟)は、笑止千万だと張無垢は言うのである。 選択肢を見よう。 「評判」、 「報酬」、 「期待」、 「温厚」、 「親密」と並んでいて、どれ が教師として最もうべき態度であろうか? ギャラが高ければ一生懸命教えるけれども、安ければ適 当になるというのが一番みっともない。よって、 は と判定できる。 これに対して、張無垢はどんな家の子弟を教えるときも一点の嘘偽りの心も生じない(不敢萌一点欺 心)という。それゆえ、本文の筆者(周煇 は、その大きく充実した忠実な真心は敬って仰ぎみるべきだ (渾然忠厚之気、可敬而仰之)と称えたのある。 正解 2 3 4 5 2 2 「Aを以てBと為す」と訓み、 に「厚‐薄」で
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第 6 講 周煇『清波雑志』
問5 解釈問題 「以A為B」は、 「以為」と熟語にして「おもへらく」と訓むことがある。 傍線部は、Aにあたる「厚‐薄」と、Bにあたる 「以厚為隆、 以薄為殺」となる。そのようにして解釈したのがそれぞれの選択肢である。「隆」を「ていねいに教え (る)」 、「殺」を 「いいかげんに教える」と解釈している点は、全ての選択肢に共通する。よって、「厚‐ 薄」の意味するところが正解を決めるポイントとなる。 そこで、傍線部の直後にある、「亦た笑ふべし(亦可笑矣) 」という文言に注目しよう。傍線部のよう 「ていねいに教え」たり「いいかげんに教え」 たりと態度を変える最近の教師ども(今教子 弟)は、笑止千万だと張無垢は言うのである。 選択肢を見よう。 「評判」、 「報酬」、 「期待」、 「温厚」、 「親密」と並んでいて、どれ 「AをBとみなす」の意 「隆‐殺」が対になっており、分解すれば、 。「為」には
「思う」の意があり、
に「厚‐薄」で 問6 内容合致問題 大問の最後に置かれていることの多い内容合致問題は、見かけ上は本文全体の内容を問うているが、 正誤の判定に関わるのは、本文の特定の部分である。たいていの場合、選択肢文が長いので、 要素に分 けて、それぞれを本文の該当する箇所と照らし合わせていこう 。
1 「どんな子どもでも」が誤り。問3で見たとおり、鉅公は、名家の跡取 えない。 「他の教師の教えも受けさせるべき だ」とする記述が本文にナシ。張無垢は、どんなにいやしく人 情味がない子であっても誠心誠意教えると述べるのみであって、「他の教師」には言及していない。 「その生来の性格を傷つけないように配慮した」が誤り。傍線部Dの直前に「恐其埋没及傷損之」と あるが、指示語の「之」は 「醇謹及俊敏者」を受けており、 「生来の性格を傷つけない」ということではな い。一読して良さそう内容の選択肢ほど、慎重な検討を要す。 「常に全力を尽くして教えることが 教師の務めである」が、問5で見た内容に合致する。報酬の多 少や、子弟の良し悪しに関係なく、ベストを尽くす者が本物の教師と言える。 よって、正解は と判定できる。 を選んだ人もいるかもしれないが、「傷損」 客語が之=醇謹及俊敏者であることに注意しよう。 1 3 4 5 5 4
2 りが振るわない事例を引用 して、子の学業が進まないことを理由に辞職を考えている家庭教師を引きとめようとした。「熱心に教 え」たとしても、「勉学にはげむようになる」 とは限らない。 と同様に「どんな子どもにも」が誤り。 「ある程度の学力を身につけさせることはできる」とも言
「Aを以てBと為す」と訓み、 が教師として最も笑うべき態度であろうか? ギャラが高ければ一生懸命教えるけれども、安ければ適 当になるというのが一番みっともない。よって、 は と判定できる。 これに対して、張無垢はどんな家の子弟を教えるときも一点の嘘偽りの心も生じない(不敢萌一点欺 心)という。それゆえ、本文の筆者(周煇) は、その大きく充実した忠実な真心は敬って仰ぎみるべきだ (渾然忠厚之気、可敬而仰之)と称えたのである。 正解
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学習アドバイス 本文では「生来の性格」に一度も言及されていないことに気づくはずである。 正解 解釈問題にせよ、返り点と書き下し文の問題にせよ、一つの句法・一つの語に着目する解法はだい ぶ身についてきたと思う。多くの受験生にとって、残る課題は語問題の攻略だ。漢字力・語彙力 は一日でアップするものではない。漢和辞典を引くという地道な努力を積み重ねよう
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